side:嘉山鶫

 いーちゃんが白水の家に呼び出されて帰省したとある土曜、俺は日がな一日苛々して過ごしていた。
 だっていーちゃんいないと落ち着かないし何より呼び出された理由が理由だし。

「……見合いなんて」

 いーちゃんの背後にいる春宮司家目当ての奴等にいーちゃんを晒すなんて、それだけで我慢ならない。ほんと言うと白水も嫌いだ。あいつらだって、いーちゃんの保護を申し出たのは事件関係諸々の処理に春宮司本家が出て来たからで、あわよくば自分たちも目にとまろうという打算があったからだ。口では孫可愛さと言うけれど、俺はそっちは信用ならない。
 見合い相手は女子部にいる一年だとか。白水の取引先の令嬢らしい。
 ちょっと調べたらいーちゃんの嫌いなタイプだった。高慢で男に媚びて、自分より立場の弱い奴を見くびって人以下に貶めるような女。まあ早い話が性格ブス。
 そもそも女嫌いのいーちゃんだから、更に相手がそれでは多分俺より苛々しながら帰って来るだろうな、と苛々しながら夕飯買いに部屋を出た途端、

「鶫っ、一緒に夕飯食おうぜ!」
「……触んないでくれない」

 今この学園で最も鬱陶しい馬鹿に捕まった。文字通り。
 掴まれた腕を振り払っても、真山はまた掴んで来る。……鬱陶しい。

「相変わらず照れ屋だなー、鶫は! なあ、芳春は? 芳春も一緒にさ、夕飯食いたいから、呼んできてくれ!」

 誰が照れてるんだ。誰が見ても俺は嫌がってますとも。
 ていうか盲目の蒙昧の分際でいーちゃんを呼び捨てるとか相変わらず身の程知らずで、まったく王道なんだから。こんな奴クソみたいなフレームの陛下にクレンジングされてしまえ。いや真山に陛下直々のクレンジングなんて勿体ない。やっぱ今のなし!

「あのさァ、名前馴々しく呼ばないでって何度言わせるの」
「鶫こそっ、俺は親衛隊なんかに負けないって何度言えばわかるんだよ!」

 何の根拠があって、負けないなんて言えるんだか。親衛隊のことを知りもしないくせに。
 守川さっさと現われてこの暗愚引き取れよ……と思ったけど、そういえば守川も実家に呼び出されていたようなのを思い出した。孤立無援ってこのことだ……。

「だからさっ、一緒に夕飯食おうよ!」

 ……にしても何か気色悪いくらい「離すもんか!」って体から滲み出てるのは何なんだ。

「あのさァ。何企んでんの、」
「た、企むって、何をだよ? そんなことより早く食堂行こうぜ! 席なくなっちまうよ!」

 ……いや潔白だって言いたいなら吃んなし。
 つーか、てめーで言ったいーちゃんのことはスルーかよ。真山の分際でこの野郎。まー、正直に教える義理はないから、そっちのが好都合と言えば好都合だけどさァ。

(王道観察は遠くから……が良いのに……)

 人生ってうまくいかない。とりあえずホスト教師爆発しろ。

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