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Side-守川俊哉
友紀は、鶫サマに捨てられて自棄になっていた俺の中に、すんなりと入って来た。
友達になりたいんだ――と、言われて、こんな俺でも誰かに求めて貰えるのだと、思った。要らなくなんてないのだ、と。
唯一俺を真直ぐに求めてくれた友紀は転校生で、いじめてくださいと言わんばかりにもっさりしている。その下には色素のうすい茶色の髪と眸が隠れているが。
素顔は、非公式だが公然と行われている抱きたいランキングだとかいう下衆なランキングの上位にいる、女のような奴等なんて足下にも及ばないほどに、可愛らしくてきれいだ(上位が友紀みたいな見た目の奴ばっかってわけじゃねえけど。……白水とか入ってるッぽいし)。
だから色んな意味で友紀は危険を呼び寄せるだろうから、傷つかない様に守ってやらなければ、と変な使命感が生まれた。俺を一人きりの暗闇から引きずり出してくれた、そのことに報いたくもあった。
守らなければ――。そればかりに気がいっていた俺は、尤も犯しちゃならない過ちをした。
友紀が友達だと喜んでいた白水を、俺は睨み付けてしまったのだ。よりにもよって白水芳春を。
自己弁護をさせてもらうと、だって白水は友紀をシカトした。友達って友紀は言ってんのに、何て野郎だと思って。
――白水を睨んだ俺を、鶫サマは一瞬、無表情に見た。ただ、見た、だけなのに、俺は魂を遅々と削がれているような感覚に陥った。恐らく単なる凌遅よりも更に苦しい、魂の凌遅。
そうして俺は、我に返った。慌てて席を立って、鶫サマに阻まれたのにもう一度白水に話しかけようとする友紀を、俺の席まで引っ張って(二人を窺った時白水に「睨むんじゃねーよ」みたいに見られた気がする。決して睨んでないんだ、信じてくれ!)、二人に近付かない様言い含めた。無駄だったけど!
友紀は昼にも食堂で白水に絡みに行って、許可も取らず相席して、白水のケーキを強奪した。――そして鶫サマの逆鱗に触れた。
にも関わらず友紀は放課後、白水に校舎の案内を頼んでいた。どんだけ図太い神経してやがんだろうか……。鶫サマが先にどっかいったのが幸いだったぜ……。
にしても白水が承諾したことには本気で驚いた。驚愕から立ち直って二人を追うと、特別棟三階踊り場から友紀の大声が聞こえて、なんだか胃が痛かった。たどり着いてみりゃ香道部長とちょう険悪だし! かどわかしの勢いで寮まで連れ帰って説教(説法?)したが、ものっそい骨折り損だった。二時間近付く口論してたせいで、無駄に腹減った……。
取り敢えず一時休戦し、俺達は連立って食堂に来たわけだが――友紀への悪意が半端ない。
たった一日でよくもこれだけ、と感心すらする。俺も原因の一端だろうが、鶫サマや白水の影響力は凄まじいものだと知れる。
どうやら鶫サマと白水は来ていないようだったので、それとなく入口から離れた席を取って友紀が二人に接触しないようにする。
友紀が近寄るなら俺が阻止すればいいことだ。出来る限りを尽くせば、鶫サマが、俺を見直してくれるかもしれない。そうしてまた、そばに在ることを容認してくれるかもしれない。
別に友紀を利用しようってんじゃない。どちらも本意なのだ。友紀がこれ以上鶫サマの逆鱗に触れない様にすることと、鶫サマに見直してもらうことは。
しかし何で鶫サマは俺を捨てたのだろうか。落ち度はなかったはずだ。燃えないから、と言われたけど、死ぬだろ燃えたら。
まさか遠回しに火達磨になって死ねってことだったんだろうか。いや怒らせてはいないからそれはない。
もえないからって、一体なんなんだ……っ!
悶々と考え込みつつパネルを眺めていると、あたりがざわついた。美形が現れたっぽいからあの二人かと思ったが、どうやら違った。二人は二人でも、三年生の双子だ。
双子は俺達のほうに向かって歩いて来る。空席あるしな、と気にも留めなかった――が。
「こんばんは、友紀」
「友紀、こんばんは」
「え? あ、和治、和昭!」
ええー……。親しげに話しかけられちゃってるし。友紀名前呼んじゃってるし。ええー……。
それぞれの名前を呼ばれた双子は、とても嬉しそうに顔をほころばせた。
……片っぽがちょっと可愛かったとかなんて、俺は思ってない。断じて。断じてな!
「友紀、一緒に食べていい?」
二人同時に言い首を傾け、双子は相席を求めた。ほら普通は親しくても許可とんだろ馬鹿友紀!
何故だろう、当たり前のことなのに「この双子は礼儀があるな」と感じ入ってしまった。何故だろうなぁ、友紀さんよ……。
「ああ、もちろん! ほら、はやく座れよ」
友紀、俺に断りくらい入れないんか。いやいいけど。期待するだけ無駄だって、嫌ってほどわかってたじゃないか、俺……。
陵弟(らしい)が友紀の横に座ったので、陵兄は俺のとなりの椅子を引いた。
「一緒して、いい?」
「んあ? あ、ああ」
座る前に聞いて来たのは、さっきちょっと可愛く見え……てなんかないが! 向かって左にいたほう、陵兄だった。
頷くとそいつは、へらりと笑ってから座る。何か風船みてーな奴だ。風に乗ってしぼむまで流れていきそうな感じ。
(……あ?)
友紀のとなり――陵兄の向かいに座ってへらりと笑ってる陵弟は、全然そんな風には見えなかった。
ああ、うん、風船の紐掴んどく奴がいねえじゃ、ダメだもんな。
(だから双子なんだろうか)
一人のまんまじゃどこまでも流されっちまうから、二人になったのかも……なんて柄にもないことをぼんやり思った。
こんなこと言及したら俺が痛い奴だから、何も言わねえでおくけど。
ちゃっちゃと飯頼んで、来るのを待ってる間それとなく周囲を観察してみる。
窺えるのは食堂入った時よりいくらか強まっている友紀への嫌悪が殆どだったが、わずかに孕まれている困惑は何なのだろう。さっきはなかったものだから、双子に関するそれなのだろうが。
何にしてもこいつらの親衛隊は珍しいほどに穏和らしいから、遠ざけることもないだろう。
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