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え、と真山は手を止める。
「顔が良くて金も持ってればチヤホヤされるのは、"外"でも同じでしょ。そいつらを非難するなら、真山クンは世間も糾弾しなきゃならないよー」
「そ、んなの……でも、だって変じゃん……。上辺しか見ないなんて最低だ!」
「ご立派な主張だねえ、鬱陶しいくらいに」
嘉山は鰈の煮付けをグチャグチャにしながら吐き捨てた。……嘉山は魚を食べるのが下手なだけであって、真山への苛立ちがそうさせたわけではない。
「あーもー、魚の皮ってなんでこんなうざいんだろ……しかもキモいし。いーちゃん食べてよ」
「何で頼んだ……。皮だけ食えってか、鶏皮ならまだしも」
「ていうか俺白身魚きらい。おいしくない」
「鱈は食うだろ」
「鍋のはね」
溜め息を吐いて、無残な姿にされた鰈の乗る皿を仕方なく引き取った。
偏食すぎるわけではないが、嘉山は好き嫌いが激しい。やれ食感が嫌だの、やれにおいが嫌だのと。俺がすぐ食べてやるのもいけないんだろうが。
メインがなくなった嘉山のトレイに、メンチカツの皿を乗せる。嘉山は結構肉食だから、一個半くらい楽にいけるだろう。俺はメンチは半分で限界。飽きる。
肉に機嫌を良くした嘉山は、茶碗に俺の残した半分を乗せながら話を説明に切り換えた。
「……まあとにかく、平穏を望むなら、生徒会や風紀とかの美形には近付かないことだよ。あと、俺達にもね」
「っ何で?! 友達なのに……」
「えー友達になった覚えねえし。……はひとまずおいといて、俺達にも親衛隊があるからだよ。いーちゃんのは次期会長候補ってこともあって、会長のに匹敵するほど大きいし、俺のは学校で一番過激だし。目茶苦茶いじめられちゃうよ〜」
嘉山のはドMの集まりのくせに、やることなすことエゲツねえ。
……いや、ドMだからこそだろうか。自分がされたら興奮することを制裁対象にしているそうだし。ニュートラルからしたらたまったもんじゃねえよな……。
何か考え込むように俯いていた真山が、急にがばりと頭を上げた。
「二人とも親衛隊のせいで友達もろくに作れなかったんだな! 安心しろよ、俺いじめとか気にしないし!」
……何をどう、安心しろと。
「部外者にいじめられたくらいで、俺は二人から離れたりしないし! だから、これからもよろしくな、鶫、芳春!」
……。こいつ、日本語が通じねえ。
機嫌よくカツにかぶりつく真山をよそに、俺と嘉山は遠いどこかに思いをはせる。
「うん……予想以上にうざいわ……。もう生まれた国に帰れよ日本語通じないよ日本人じゃないよこいつ……」
「ん? 俺生まれも育ちも両親も日本人だぞ」
「都合悪いことは聞こえないとかほんともう……。壊れろとは言わない、死ね」
嘉山は今度こそ苛立ちでメンチをハチの巣にした。
「いーちゃん……真山ん家潰したら怒られるかな……」
「……んなもん代理に確認しろ」
「そうだね……うん」
それきり、飯を終えて部屋に戻るまで気力を奪われた俺達が一言も喋らなかったのは、言わずもがな。
部屋に帰るなり嘉山が真山の家を潰してもいいかとメールを送ったところ、
『ふざけんなあの家は俺の獲物だ手ェ出すなこの腐れ蜜柑』
と速攻返信があったのを鑑みるに、代理も代理で真山の家と何かあったらしい。
嘉山はずるいずるいとうじうじ返信し、とうとう電話になってどちらがやるかと激しく争っていた。軍配がもちろん代理に上がったのは、言うまでもない。
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