料理が運ばれてきてから、そういえば、と小早川が口を開いたので、ひとまず心配するのを止めた。

「心山の同室ってさ……四十九院、だよね」

 咀嚼中だったため、頷くことで肯定を示す。

「ぶたれたりしなかったか? 猛獣とか言われてるような奴だし、同じフロアの連中殆ど戦々恐々としてんだ」

 口内のものを飲み込んで、水で潤してから発言する。

「お昼に誘ったらフラれてもうた」
「は?!」
「え?!」

 声をそろえて驚かれた。銀蘭の人間は一緒に驚くのが好きなのだろうか。

「おま……よく殴られなかったなあ」
「そんな、悪い奴にも思えへんかったし。あー、でもあんな怖い顔してはったら、せっかくの綺麗な顔が勿体ないなあ。あの血ぃみたいな赤い髪と目ぇ、似合うてはるのに、しかめっ面ばっかで、ほんに勿体ないわぁ」
「宍戸さんに、話聞かなかったの? 危ないって」

 聞いた、と短く返す。

「噂や行いだけで人柄を決め付けるようなことは、好かん。聞いた話に佑の内実があらへんし。宍戸はんにも言うたけどな、佑が猛獣かどうかは俺が判断する事や」

 話してみて、あれは猛獣などではない、と感じた。今はそれだけで十分だ。
 内実は知りたいが、焦る必要もない。名前を呼ぶ事を、佑は咎めなかった。出会って数十分にしては、大きな一歩なのだから。

「そっか……。四十九院って、どんな奴なのかな」
「まだわからんけど、これからぐんぐん仲良うなるつもりや」

 どこか感心したような微笑みを向けられる。それにこちらも笑みで返した。

「……あ、だったら生徒会に気をつけねーと」
「生徒会も、佑が猛獣やと思ってはるんか?」
「いやいや」

 苦笑まじりに否定する早少女に、首を傾げる。では何だと言うのか。

「生徒会……というか生徒会長がね、四十九院に骨抜きだそうだよ。彼と一緒に行動するなら必然的に会長と遭遇する確率が高くなるから」
「四十九院はともかく、ムネが会長と近付くのは奴等が黙ってねーと思うんだ」
「奴等?」
「親衛隊」

 人気があるのも大変なのだな、と二人の表情から察する。恐らく彼らにも親衛隊があって、辟易しているのだろう。

「俺たちにも中等部の時あってね。それが友達も好きに選ばせてくれないんだ」
「何様やの、それは」
「だろ? ダチくらい自由に選ばせろよなー。あんな奴じゃ釣り合わないだのなんだの言ってさ。高等部ではできないように願ってんだ」
「俺たちの場合は引き離す程度で済んでたけど、生徒会ともなると全校生徒の憧れの的だから。ちょっとぶつかっただけで退学にまで追いやられた人もいるみたいなんだ」
「あいつらは、ムネが言うように内実云々なんか通用しねえんだ。それに多分、四十九院のも過激だと思う。だから、気をつけろな」

 実を言えば、不安があった。住み慣れた土地を離れて、知り合いなど誰一人いない場所で過ごす事に。身を案じてくれる友人の、何と心強いことか。友となるのに時間などは意味を成さないのだ。
 迅には、本人の品性が人付き合いの根源であるように思われた。二人は自分の人柄を知った上で、心配してくれたから。




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