ふたりあわせて!



 最初から友好的にことが進むとは思っていなかったし、佑が自分から名乗ってくれただけでも大収穫だ。
 ただ母親に対してあの態度は、何がなんでも改めさせたい。意味もなくあんな態度をとっているのじゃないだろう。本当に鬱陶しいのかと訊いたとき揺らいだ眸を信じたい。あれは素直になれず意地を張っている類いの眸だ。
 伊達に五人の弟妹の母親代わりをやってきたわけではないから分かる。話は、思ったより単純で簡単かもしれない。
 玄関を閉めたところで、向かいからも人が出てきた。二人とも少年アイドルといった風の、きれいな顔立ちをしている。

「あれ、外部?」
「うん」
「次席だっていうからどんなんかと思ってたけど……フツーだな!」
「早少女(さおとめ)っ」

 さらりと感想を述べる早少女なる少年を、彼よりいくらか小さい少年が窘める。

「ああ、ええよ別に。俺自身平凡やと思っとるし」
「ごめんな、脳と口が直結してる馬鹿で。俺は小早川、こっちが早少女」
「二人合わせてこばやとめー!」
「ちょ、お前黙っといて」

 こいつ馬鹿なんだ……と溜め息を吐く小早川に、思わず笑みが零れた。

「俺は心山迅、好きに呼んでくれはってええよ」
「平凡顔の次席外部生は爽やか笑顔のはんなりさん」
「は?」
「気にしないで心山。馬鹿なんだ」

 何度けなされようと意にも介さない早少女は心が広いのだろうか。それともそこに悪意がないから許しているだけなのだろうか。迅には計りかねた。

「心山もこれから昼?」
「ああ、うん。食堂行こー思て」
「俺らもだし、ムネ一緒しねえ?」
「ええのん?」
「オフコース!」

 親指を立てる早少女に、それならばと頷いた。エレベーターで二階に行くと、生徒の姿は多くなかった。昼時を逃しているからだろう。

「……はあぁ」

 これは食堂と銘打っただけのレストランではないのか。全体的に白く、だが狂うような圧迫感を感じられないのはその広さと、所々に置かれた鮮やかな緑や花々があるからだ。付け加えて、この白が無機質さを持たないからでもある。わずかに黄味を帯びていて、ふわりとしたあたたかさすら感じられる。
 三人は窓に近い、入口から離れた奥の方に陣取った。やや長方形のテーブルは四人掛けで、左右の邪魔にならないところにタッチパネルが設置してある。溝の部分に部屋のカードキーを差し込み、表示されるメニューの大カテゴリを選択し、その中から食べたいものを選んで決定、カードキーを抜き取る。あとは席で待っていれば、ウェイターが運んできてくれる。
 小早川の説明を聞きながら、何とも至れり尽くせりだと思った。迅はどちらかと言えば庶民派であるから、システムにもメニューの値段にも開いた口を閉じることができなかった。

「何の変哲もないツナサンドが千円て……」
「一番高いと普通に万越すよ」
「金銭感覚がおかしゅうなるぅぅ……」
「とか言いつつ選ぶのは二千円の親子丼ー!」
「食欲には勝たれへん」

 そう言っても、二千円あれば弟妹に好きなお菓子を買わせてやることが出来るな、と思ってしまう。残してきたきょうだいは大丈夫だろうか。家事などは人を雇うことにしたから問題ないが、寂しがることだろう。次男さえ、今年で小六になったところだ。
 ――心山家には母がない。迅にとって二人目になる母は五歳になる末の弟を産んですぐに亡くなった。ゆえに、以来長兄である迅が母の代わりを務めてきたのだ。

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