模索する赤


 放課後、佑は生徒会室で補佐の仕事に勤しんでいた。いつになく真面目に動いているので晟が不思議そうにしていたけれど、佑は真面目にしながらも上の空だったので気付かなかった。風紀に書類を届けてくるように言われた時はさすがに嫌な顔をしたが、義隆に押し切られた。
 佑はぼんやりと思考をあちらこちらに飛ばしながら風紀室の扉を叩く。中から聞こえた桂の誰何に答え、入室の許可を得てから扉を開けた。

「何の用だ、問題児」

 正面奥のデスクにいる桂は、書類を見たまま佑を一瞥もしない。投げつけられた声にはいらだちがずいぶん含まれている。風紀委員がひと言も喋らず黙々と仕事しているのは、桂の不機嫌のせいだろう。

「生徒会からの書類」
「あァ? ……チッ」

 凶悪な顔をして書類を受け取った桂のデスクには、すでに多くの書類が積み重なっている。

「あと、当日の警備はどうなってるのかってよ」
「あとで書面にして伝えるッつっとけ」

 わかった、と頷いて佑は踵を返し、ついでに生徒会行きの書類を受け取って風紀室を出た。

「あれ。佑やないか」
「迅」

 横から声をかけられてそちらを向くと、丹羽と連れ立った迅がいた。最近は放課後に自室以外で出くわすのは珍しくて、佑はつい声を明るくする。

「佑〜、何かお久じゃぁん!」

 丹羽はきゃっきゃとはしゃいでまとわりついてくる。

「生徒会の用事やったんか?」
「ん」

 佑の持つ書類に気付いた迅の問いに頷いた。迅と丹羽は見回りの帰りらしい。聞いてもいないのに丹羽が教えてくれた。

「はばかりさん。それやったら、はよ戻り。生徒会行きの書類やろ?」
「ん……」

 佑は頷くが、それでもじっと迅を見たままでいる。

「どないしゃはったん?」
「あのさ……」

 佑は口をもごもごさせて言い淀む。ちらりと丹羽を見やると、丹羽は先に風紀室に戻っていった。
 風紀室の扉が閉まるのを見届け、佑はいよいよ口を開いた。少しだけ頬を赤らめ、目をわずかにそらしながら。

「迅って……夢中になるものとか、あんの」
「へ?」
「その……部活とかそういうの」
「んん……夢中に、なぁ」

 迅は右上を向いて顎を撫でる。少しの間佑が見守っていると、そのうち「夢中とは違うかもしれんけど」と前置きをした。

「弟や妹らの面倒見るのは、楽しいなぁ。大きくなってくんを見るんは、楽しいえ」
「……そっか」
「どないしゃはってん、急に」
「べつに」

 佑は首を振る。何もない、などと嘘だというのは当然見抜かれているだろうが、迅は深入りしてこなかった。深刻なものを感じ取ったのならあるいは聞き出そうとしたかもしれないが、そこまで深い悩みでもない。

「俺、戻る」
「さよか。……何かあったら言いよし。力になるさかい」
「ん」

 頷いて、佑は生徒会室に戻る。廊下を曲がるまで迅が佑の背中を見送っている気配がした。


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