風紀副委員長である秋大路涼月(りょうげつ)は、携帯を耳に当てたまま立ちすくむという、およそ彼らしからぬ姿を周囲の木々に晒していた。五月雨のような情緒的な美しい面立ちは、極度の緊張に強ばっている。
 五分ほどしてから我に返り、慌てて風紀委員長の桂に連絡をつける。齎された驚愕と緊張の内容を告げると、矢張り桂も言葉を失った。
 それから重たい息を吐いた桂に、近くにいるらしい晟への通達を任された。桂は教師陣へ連絡すると言って、通話を終わらせた。
 倉卒と晟のいるらしい方へ行き、果たしてそこには丁度良く書記の愛宗の姿もあった。

「――秋大路」

 風紀の姿に身構えた晟と佑に、待ったの声をかける。

「見回りで貴殿等の前に現れたのではない。……会長、関。ゲームを中断して頂くが、構わぬか」
「俺はどうせタグ取られてんで、いいっすけど」
「俺も構わんが、佑」
「好きにすれば。何かあったんだろ」
「あった、と言うより、これから起こるのだ」

 秋大路の緊張した声に、晟と愛宗、丹羽も眉を顰める。本来秋大路は、緊張などとは無縁の男だ。――と、少なくとも学園の生徒は思っている。
 その秋大路が些か静謐を失って、晟に耳打ちをする。晟も晟で、目を見開いて秋大路を見た。

「――なに……」
「何すか? ……は?! 何で! だって……えぇ?!」

 晟から耳打ちされた内容に、愛宗はたまらず声を上げた。秋大路はそれにわからない、と首を振る。

「ともかく、一般生徒にこれを気取られぬよう動いて頂きたい。……特に親衛隊には」

 ちらと不思議そうにしている迅に視線を送ると、どうやら丹羽と晟だけが真意を汲んだ。一瞥された迅は何がなんだかわからずに、首を傾けている。

「どうせそろそろ終了時間だろう。このまま本部へ戻る。義隆は?」
「私は見ておらぬが、ゲームに参加していない以上本部あたりにはおるであろう。――丹羽、そちも疾く戻りゃ。奇襲などしでかした分、馬車馬の如く働いてもらうゆえな」
「げっ……バレてたぁ……」
「当然であろ。関、心山、風紀の馬鹿が迷惑をかけた。すまぬな」
「いえ……」
「だからぁ、でもね副委員長ぉ、それは気付かないあいちゃんと迅ちゃんが悪……」
「丹羽。水責めを所望かや」
「うっ……ナンデモアリマセ〜ン」
「心山と四十九院、ついでに正面まで送るゆえ、着いて来(こ)や」
「……」
「あ、へえ」

 秋大路の冷ややかな視線と物騒な発言に、丹羽はそそくさと立ち上がって歩き出した。単なる脅しだったのだが、秋大路なら実際にやりかねない、とも生徒に思われている。
 踵を返す前に秋大路は、ひどく意味深な眸で佑を見やる。次いでそれを迅に向けると、察したらしい佑は舌打ちをひとつして、迅の手首を掴んで歩き出した。
 訳の分からないまま半ば引きずられていた迅だったが、人目が多くなるにつれ佑がやたらと、けれど自然に触れてくるので、どうやら警戒か、挑発かをしているらしいことに気がついた。
 ――射殺すような強い視線を感じたのは、森を抜けてすぐのことだった。

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