花蘇芳を手に


 瑰奇と小野崎は、ゲームには参加せず本部で監視カメラの映像をチェックしていた。瑰奇の見ている画面のひとつには、晟たちの姿が映し出されている。
 音声こそないが高解像度のそれで、瑰奇は迅と佑の一部始終を眺めていた。
 ――厭きない奴らだ、と思う。
 迅が来て、佑は変わった。もちろん良い方向に。
 そしてまた、それによって愛宗も変わる。
 良い方向にも悪い方向にも変わる人間を傍観するのは、ひどく楽しくて心地良い。
 連鎖的に変化していく"今"に、瑰奇はうっそりと唇を歪めた。
 迅が現れてから、希薄がちだった世界が鮮やかになったような気が、瑰奇にはしている。いつでも灰味をおびた世界だった。佑の猩々緋も晟の蘇芳も義隆の藤黄も、どこかくすんだように見えていた。
 それが今では、色彩が舞い踊るかの如く華やぎ、輝き、煌めく。ああ彼らの髪は、あんなに美しい色であったのか、とぼんやり思ったものだった。
 この色彩豊かな世界を齎した迅が歪むさまは極上の美酒であろうと思っていたのに、今は歪んで貰っては詰まらないと思っている。あれには、今のままいてもらったほうが、きっと楽しい。そのほうが、瑰奇の世界はもっと鮮やぎ、傍観に更なる愉悦を加味してくれる。
 だからと言ってそのために親衛隊を抑え込むつもりは、毛頭なかった。逆効果になるだろうし、傍観者ではなくなってしまう。
 親に「おまえが長男でなくて良かった」と溜息をつかれた性癖だが、瑰奇こそ長男でなくて良かったと歓喜している。嫡男では、傍観していられないから。
 そこそこの高みから人を俯瞰できる今の立場が、瑰奇は気に入っている。
 画面の中で愛宗が渋々晟にタグを渡しているのを眺めつ、いっそう笑みを深くした。
 ――詰まるところ瑰奇は、傍観の悦楽以外に対する向上心やら野心やらといったものが、欠落している。
 丹羽が晟にタグを投げ渡し、晟が二人のタグからカバーを外すのを見届けて、瑰奇は放送用マイクのスイッチを入れた。

「――関愛宗、心山迅ペア失格。風紀委員丹羽荘司、撤退」

 監視モニターの脇にあるノートパソコンに表示されているリストでも、彼らの欄に打ち消し線が引かれていた。
 マイクを切ってからまたモニターに視線を戻す。
 隣に座り同じく監視している小野崎は不審を発見したらしく、インカムで風紀に連絡している。

「どういう心算だ、小野崎」

 連絡を終えた小野崎へ、瑰奇は視線を遣らずに問い掛けた。

「何がっすか」

 小野崎はちらと瑰奇を一瞥してから、素っ気なく返す。

「どういった訳で心山に接触した?」
「クラスメートと仲良くしちゃいけませんかね」
「唐突に過ぎる。……佑が川崎を呼び出した翌日、などと、怪しい以外に何がある」
「穿ちすぎじゃないですか」
「――お前、激烈(うち)の下っ端だったろう」

 ややあってから、小野崎は知っていたのかと返してきた。
 瑰奇が末端に気をやる質には見えなかったのだろう、驚いている気配が伝わってきた。俯瞰する傍観者を舐めるな、と心中で軽く言った。
 ただ、そうでなくとも小野崎の存在は目に入ったろう。

「桂に目をかけられていたからな」
「そうでもないですけど」
「桂はバレないようにしていたらしいが、俺や晟には無駄なこと。――桂の指示か」
「さあ、どうですかね。そう思いたいなら好きに妄想してれば良いと思います。俺風紀委員じゃないんですが、どうせ否定しても、あんたは信じないだろうし」
「……副長に対して、生意気なことだ。表に顕れているものが正しいとは、限らないだろう」
「仰ってる意味がわかりませんね。俺、賢くないんで」
「ふん……まあ、俺の傍観さえ邪魔しなければ、どうでもいいがな。――長谷川一仁、小早川隆明ペア失格」

 傍観のスタンスを崩させた小野崎はその時点で瑰奇の邪魔者で、彼を送り込んだのだろう桂に些か腹を立てたが、そう言えばあの鬼も何やら面白いことになっているのだと思い出して、瑰奇は機嫌を直した。

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