建物の多いエリアを抜けると、そう遠くないところにホテルのような建造物を見つけた。義隆曰く、あれが寮らしい。二階部分までの高さの新緑が、寮の白さを際立てている。
 自動ドアをくぐってロビーに入る。派手さはなく、だが金をかけているのがわかった。使い方もいやらしくない。
 広いロビーは閑散としており、正面のフロントには人がいなかった。

「あにゃーん。りょーかんいねえし。おーい、しっしー!」

 フロントの脇にある扉を遠慮なしに叩く義隆に瞠目した。叩く、というより殴る、に近かったからだ。
 しっしー、というのが寮監らしい。義隆が殴り続けていた扉が開く。――かなりの勢いで。耳に届いた鈍い音に、迅はついぞ目を背けてしまう。

「うるせえんだよ佐竹ェッ! 毎回毎回扉壊す勢いでノックすんなって言ってんだろうが死ねこの屑!」

 寮監が、額と鼻頭から煙を出しそうな義隆の胸倉を掴む。インターホンを無視するな、と男が怒鳴ったところで、ドアの脇にあるスピーカーに気が付いた。

「しっしー……痛い……。俺のおでことお鼻がブロークンハートした……」
「扉のほうが痛ぇだろうよ。――で? くだらねえ用事なら山に埋めんぞ糞餓鬼が」

 随分と凶悪な男が出て来た。本当にこれが寮監なのだろうか。裏の人の間違いではなかろうか、と思ったところで目が合った。

「……ハズレか」
「もー、当たりハズレはいーから。むねたんの部屋どこー?」

 ハズレ、というのは恐らく顔のことだろう。噂には聞いていたから、さほど動揺せずに済んだ。
 銀蘭は初等部から高等部まで全寮制の男子校だ。エスカレーター式で、周囲に女子校もなければ街もない。異性との触れ合いなど皆無に等しい。ゆえに、恋愛感情が同性に向く、と。取り敢えず自分がそれに巻き込まれるわけがないので、迅は鷹揚に構えている。

「外部生、名前は」
「心山迅です」
「心山、ね。俺は寮監の宍戸だ。あー……お前の部屋は四〇一……でえっ!」

 フロントのパソコンで部屋を調べるなり、宍戸が眉を顰めて厳しい顔をした。隣りに立つ義隆にしても、同じような色を見せている。

「うへぇ。ちょっとこれ、だいじょーぶなの、しっしー?」
「あの、何かあるんですか?」

 義隆は一度こちらを見てから、宍戸と複雑げな顔を突き合わせた。

「うーん……。あるっちゃあるんだけどー。ないっちゃないのかにゃー。取り敢えず、まずはりょーの説明しちゃうね」
「はあ」
「このA館、つまりせーとりょーなんだけど。こっちは一階がごらんのとーりロビーとちょっとした待合所っぽいとこにりょー監室。二階がしょくどーとカフェテリア、医務室にコンビニ。しょくどーは朝六時半から夜の九時までやってるよ」
「三階と四階が一年の部屋で、原則二人部屋だ。五階と六階が二年。三年は受験もあるでな、一人部屋で七階から九階を使ってる。十階が生徒会及び風紀委員幹部の部屋だ。これも一人部屋で、だが一般生徒の部屋より広い。十階にはゴールドのカードキーがないと行けないようになっている」
「地下一階にはお店があるよー。本屋さんとか、服屋さんとか、にちよーひんや食材なんかも売ってる。びよーしつだってあるんだぜ! 地下二階にはお風呂と、なんとスポーツジムまでー! あ、まあお風呂は部屋にもついてるんだけどー。はい、ここまでで質問は?」

 説明をしている間、宍戸の顔からは苦汁が絶えなかった。一体四〇一号室に何があるというのか。
 その正体はおいおい話してくれるようなので、ひとまず引っ掛かったくだりを問うことにした。

「何や、生徒会や風紀委員の待遇がええように見受けられるんですけど」

 うん、と義隆がひとつうなずく。

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