※ 西側入り口からスタートした佑と晟は、順調にタグを集めていた。生徒会長と問題児のペアに襲いかかろうとする者は風紀以外には少なく、晟としては些か消化不良ではあるが。
現時点で風紀のタグが三枚、一般のタグが三十枚と少し。風紀のうち一枚は途中で不埒を働こうとしていた馬鹿者を成敗して本部に通達した時、連行しにきた委員に謝礼代わりに貰ったものだ。
このまま風に順(したが)えば、一位になれることだろう。なったところで特に叶えたいことも晟にはなかったが、どうせ参加するなら頂点に立っておきたいものだ。
それにしても――。晟はちらと、隣を歩く佑を盗み見る。
ゲームが始まってからも気が散じていて、まるでいつもの俊敏な攻勢が見られない。どころか風紀には遅れをとりそうになっていた。
今も、晟に見られていることなど気付きもせず、何やら思惟を巡らせている。
やれやれ……と晟は内心溜め息をついた。迅と何某かあっただろうことは、既に推察している。しかしそれがよりにもよって、交流会開始日などとは。
こいつらは一体何をしているのか……。呆れを混ぜて、今度は本当に溜め息をつく。
これはいよいよ、口を挟まなければならないらしい。鍵を迅に託した手前、二人で解決してもらいたかったのだが。
佑一人で考え込んだところで、導き出せる答などたかが知れている。視線を前に戻し、立ち止まらずに晟は口を開いた。
「――何があった」
「……何も」
「なにもないと言い張りたいのなら、いつものように心山に引っ付いて下らん話に花を咲かせているんだな」
「……」
「村上が始終おろおろと震えていたぞ。喧嘩でもしたか」
「……」
「佑」
いっかな口を割らない佑の歩調が緩み、やがて立ち止まった。晟も佑に倣い、振り返って俯く佑を見下ろした。
「……多分、俺が悪い」
「ほう?」
「……んだと、思う……。何か迅、機嫌悪そうだったのに」
無神経を言った……と、佑は拳を握り締めた。
「今朝……ガキの頃の夢を見たんだ。その夢の話を、してた……。……俺、迅の家のこと聞いてたのに、苛ついてるとこにそんな話されちゃ、そりゃ怒りたくもなるだろと思った……」
自分のことしか考えられず、他人を慮ることが出来ないのだと、思い知らされた。
「……そうか」
「謝ろうと思ったけど、迅はギリギリまで部屋に戻って来ねえし、戻ったら戻ったで話す時間もねぇし。で……」
「謝るタイミングを無くしたか」
「う……それもある、けど」
「何だ」
「……どうやって謝ればいいかわかんねぇ……」
「……は? 謝ろうとしてたんだろうが、それが何でわからない何て事になる」
「だって迅絶対ぇまだ怒ってるし……」
シャツの裾を引っ張ってうじうじと顔を逸らす佑に、晟は瞠目する。
「どうしたら許してもらえっかな……」
「お前……おまえな」
「……ンだよ」
「心山がまだ怒ってるって、マジで思ってんのか」
「怒ってるだろ……口利かねえし」
寧ろあれは気まずくて口を利けない状態だったと、晟は元より村上でさえ気取った風だったというのに。
当事者だからこそ悪い方に考えて、気付かないものなのか。元々佑は、思考が後ろ向きだから尚更だ。
こいつらは……。と口内で呟いて息を吐き出すと、佑が不安げにちらりと晟を窺った。珍しい上目遣いにぐらりと来たが、理性を働かせた。
「……いっそもう殴り合え」
「は?」
「うだうだうじうじしてるくらいなら、殴り合って発散させた方が早いのじゃないかって話だ」
お誂え向きに、タグ争奪戦と言う建て前もあることだ。
拳で語り合えなどと自分にしては大雑把だが、その方が蟠りが少ないのも確かだろう。
「よし、心山達を探すぞ」
「俺はっ」
「対話で済むなら、それにこしたことはないだろうがな。まあ先ずは、あいつらと出会すことだ。殴り合うか対話するかは、佑が選べば良い」
「……っ」
それにあちらでも、今朝からの二人の空気が気に食わなかったらしい愛宗が、何某かの役に立っているはずだろう。
晟は佑の手を掴んで、正面入り口方面へと歩を進めた。
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