天使の行軍


 銀蘭高等部1A代表村上美紘(よしひろ)は、戸惑っていた。それはもう、代表に指名された時より遥かに。
 本来準備係でも生徒会とは別の車で春宮司所有のホテルに向かうはずだったのが、何故か自分と迅まで生徒会と同乗している。これは戸惑うことも少ない。晟が佑と迅を一緒くたにして送迎車に詰め込んで、バスに乗ろうとした村上をもどうせだからとかで同じ車に押し込めたからだ。ちなみに制裁の類いは心配ない。村上の従兄が晟親衛隊の副隊長で、しかも溺愛してくれているものだから。晟はそれを知っていたからこそ、村上も一緒くたにしたのだろう。
 では何故こうも戸惑っているのかといえば、車中の、賑やかにも関わらず重苦しい空気が原因だった。

「はい、また俺あーがりっ」
「てめえっ……イカサマでもしてんじゃねーだろうな!」
「あいちゃんついに難癖しかつけられなくなってやんのー。かっこわるいお」
「うるせぇッ、あいちゃん言うな! おい小野崎てめえもう一回だ! 今度こそ……ッ」
「諦めが悪いぞ、関」
「何回やっても俺の一人勝ちですよ」
「うるせぇ! やるったらやるンだよ、書記様に口答えすんじゃねえ一般生徒がッ」
「横暴ー」

 ――とこのように、生徒会マイナス二と小野崎がババ抜きに夢中になっているなかで、傍観しつつ交流会の日程表を確認している晟はともかく、

「……」
「…………」
「……」

 迅と佑の様子がおかしい。おかしいというか、ぎこちない。
 晟も気付いているらしいが、口を挟む気はないらしい。この中で唯一首を突っ込めるだろう晟が口出ししないので、村上はこの重い沈黙に耐える他なかった。
 そもそも、あの佑が大人しく晟の隣に座っている時点でどうかしている。村上はてっきり、佑が迅の隣――村上の座る場所を陣取るとばかり思っていたのに。

「あぁ?! 何で俺ばっかババ来るんだよ!」
「えー日頃のおこないとか?」
「リアルラック低いんじゃないすか」
「どちらもだろうな。というか暴露してどうする関」

 左に騒ぐ愛宗、右は口を利かない迅の両極端に挟まれて、村上はこっそりと溜め息をついた。

(真壁君……たすけて……)

 1Aの小動物は、生憎とカオスに耐性がなかった。

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