忍び寄る





 授業初日の翌日、警戒しつつ登校した迅と佑は、整然とした下駄箱やロッカーに目を瞬かせた。
 それから三日後。一応警戒して登校した迅だったが、下駄箱は相変わらず綺麗なままで、警戒心を嘲笑うかのようだった。

「……風紀か」

 内心首を傾げたところに、佑がやや気に食わないといった様子をみせて呟いた。
 どうやら風紀委員が見回りをしているらしい。何やら手数をかけているようで、些か申し訳なくもなった。
 この学園における風紀委員会というのは、校内での暴行など事件を取り締まる警察機関の意味合いが強い。服装やらは、そもそも学校側が厳しくないので検査しない。
 妙に浮き足立つ生徒たちを横目に教室へ向かっている途中、階段で不意に肩を叩かれた。
 振り向くと、割と整った顔立ちの、しかしともすれば人込みに埋もれてしまいそうな生徒が、友好的な笑みをうかべていた。この暗い茶髪の男に、迅は見覚えがある。

「はよーさんっ」
「おはようさん。……ええと確か」
「クラスメイトの小野崎次郎! いっやー、何か話しかけるタイミング逃しまくりでさあ!」

 それは迅が佑と真壁を構っていたり、小野崎自身に来客があったりのことだ。
 通りすがりの他のクラスの生徒がたくさん、小野崎に軽く挨拶していくのを見るに、この朗らかで人好きのする笑顔と社交性は、多く好かれているらしい。

「同じクラスだし、これからよろしくなー、心山」
「ああ、よろしゅうに」
「四十九院も、な」

 何故か小野崎をうろんげに見ていた佑に、小野崎は意味ありげにウインクをしてみせる。
 途端佑は不機嫌をあらわにして、そのままどこぞへと去って行った。

「短気は損気だよなあ」
「へ? あ、まあ……せやな」

 新しい玩具を見つけたような、悪戯っ子のような笑みの意味がわからず、迅はただ首をかしげた。
 その日――昼のこと。両早と小野崎、二限になってから教室に現れた佑と共に食堂で昼食をとっているところに、生徒会四人が席までやってきた。勿論それだけで騒がしかったが、晟が

「交流会のことで話がある」

 と言ったのを耳にした付近の生徒が、まさか……とか、そんな……とか悲愴たっぷりに言葉を交わしあいはじめた。

「ペアのことなんだがな」

 交流会とはその名のとおり、生徒同士の交流を目的としている、一泊二日の"お泊まり会"だ。こういうと幼稚に聞こえるが、宿泊学習と言うには色々な意味で足りないのだから仕方ない。
 交流会は二人一組のペアで行動することが原則とされており、そのペアは今日の帰り籤引きをして後日公表されることになっている。
 今朝から生徒が浮き足立っているのはそのせいだ。人気の美形とお近付きになれれば――という(一部将来的な意味を含めた)魂胆がある。

「佑は俺とペアんなれ」
「はァ? ざけんな」
「諦めろ、決定事項だ」
「ペアって籤引きやないんですか?」

 口を挟んだ迅に、晟がああ、と上機嫌で頷いた。

「普通はそうだが、ランキング上位十名は指名できる。まぁ隔離というか特権というかは人によるが」
「つっくんは去年のイザコザで除外だから、拒否権ないお〜。あきらめたまえ!」
「ウゼ……生徒会なら単独許可あんだろ」
「ふ、いいのか、佑。……アレとペアになりでもして」
「……!」

 晟が揶揄するなり、物凄い形相で佑は晟の脛に蹴りを入れた。容易に躱されていたが。
 迅には"アレ"なる者が誰なのかわからないが、少なくとも佑にとって喜ばしくない人物であるのは確かだろう。

「嫌なら受けろ。ま……そもそも拒否権はないがな」
「……くそ」

 忌々しげな舌打ちには確かに了承が含まれてい、晟はたいへん満足そうに口角を上げた。

「……心山迅」

 その晟とはまったく逆に、機嫌の悪さを露にしている愛宗が低く唸った。

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