父親はどういう人物かと佑に聞かれた時、迅は「できた人だ」と答えた。ただしそれはこの駄目っぷりを除けば、という註釈が入る。
 焦れったさのあまり迅が頭をかきむしる横で、佑は隼人を驚き混じりに見つめた。
 この父、意外に美形である。迅が平凡なほうだから父親もそうなのかと、勝手に思っていたのだ。
 そういえば男は母に似るとも言うから、では迅の生母が……と何とも失礼なことを考えていると、隼人と目が合った。

「迅のおともだちかい?」

 ふにゃりと微笑まれ、つい頷いた。毒気というか、刺々しい気持ちを全部消されてしまったのだ。
 肯定すると隼人はいっそう笑みを深くして、なんといきなり頭を撫でてきた。流石に驚いて硬直する。

「はじめまして、迅の父の心山隼人です。きみの名前は、なんていわはるんかなぁ?」
「四十九院佑……です」
「たすくくんね! 迅をよろしゅうねぇ、佑くん」

 撫でられたまま、また頷く。迅がよく頭を撫でるのは、この父の影響なのだろう。

「親父」
「ん〜?」

 迅に呼びかかけられた隼人は、佑の頭を撫でたまましゃがみ込んでいる迅に向き直った。

「一色はんに連絡とったさかい……ここでじいとしとき」
「あ、うん、おおきにね、お兄ちゃん」
「…………」
「なーに?」

 迅はぽやぽや返事をする隼人を、じとり……と見ている。この迅の胸中といえば、
(目ぇ離したら絶っ対またふらふらしはるな……なして一つ所にじいとしてられへんのやろこの人……ちゅうか案の定佑も早速懐いてはるし。一種の才能やんな……)
 なのである。呆れか感嘆か、本人にもわかっていない。
 ふと、この父に会わせたら、瑰奇もよく懐くのではないかと、迅は何故か思った。そう言う"類い"な気がする。だからといって、わざわざ引き合わせようなどとも思わないけれど。

「ここの文化祭って」
「あん?」

 ようやっと隼人は佑から手を離して、今度は迅と同じようにしゃがみ込んだ。見下ろす佑がきもち淋しげなのは、多分錯覚ではない。

「外来あるんだったよね」
「らしいけど」
「したら、空(そら)くん来させるから、息抜きさせたって」
「……うん」

 空というのは、今年幼稚園の年長組に上がった末の弟のことだ。この末弟を産んですぐ、彼の生母は亡くなった。
 引っ込み思案で極端に笑顔の少ない末弟を思って、迅の心はひどく時雨れた。迅は空が一等心配なのだ。
 重い溜め息を吐いてから、迅は立ち上がる。自分が暗くなったところで、空が救われるわけでもない。
 丁度一色が(鬼のような形相で)やってきたので、隼人とはそこで別れて佑と寮に戻った。
 佑は何も聞かないが、じいと見てきている。気になってはいるのだろう。
 説明した方がいいかと口を開くも、虎次郎の腹を顔面に押しつけられたことで阻まれた。

「……昼飯、俺が作る」

 虎次郎の腹への強制キスから開放された時にはもう、佑は背を向けて歩き出していたので、どんな顔をして言ったのか、迅にはわからなかった。けれど、

「……おおきにな、佑」

 けれどそれが佑の気遣いだということだけは、沈んだ心でもきちんと分かった。

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