「俺が訊いたのは、友人として、ってことだ。それならどうだ?」
「……それこそ知らん」
「何故」
「まだ、会ったばかりだし……」
「時間などな、人の好悪には関係ないぞ。心山のそばを、離れたくないのだろ?」

 ややあってから、控え目に頷いた。即答も出来たが、どうにも気恥ずかしかった。

「それでいい。心山と一緒なら、何か変わるだろうな」
「……手前で変えてえとか、思えよ。好きだの何だの、言って来るなら」

 言う前に目を逸らしてしまったので、晟がどのような顔をしたかはわからない。
 ただ、鴬の声に混じって、ふっと笑ったのが知れた。

「……思わないわけ、ないだろう」

 弾かれたように顔を晟に向ける。苦笑、のような表情を、晟はたたえていた。
 声も同じような色をしているのに、妙に違和感を覚える雰囲気だった。

「好きだと言ったろう、佑」

 あまりの真剣さに気圧され、ゆるゆると頷く。

「お前の光明となり得るのが、どうして俺ではなく心山なのかと思うとな、俺はあいつをなぶり殺しにしてやりたくなる」

 この男にしては過激な言だったので、佑は目を剥いた。不思議にわななく唇を開いて問う。

「迅が……嫌いなのか?」
「いいや。あれは良い男だ。……納得いくからこそ、悔しいんだよ」

 得心いかねば、無理にでも役目を奪うつもりだった、と晟は呟く。

「俺もお前も――いや、この学園にいる奴は大抵根っこのほうで同質(どうるい)なのだろうな」
「同質?」
「面倒な家庭の事情やら、親子関係やらで、何かしら抱えた奴ばかりだ」
「……ん」

 ちらと曇天を上目遣いに見上げる。この天気は誰の心だろうか。

「だから、心山なんだろうなあ」

 あれは異質なほうだ。晟の口から出た言葉に、佑は今度は同意しかねた。
 家庭の事情とやらは、迅だって持っている。恐らく、無為に過ごして来た佑には想像するしかない辛さもあったことだろう。
 父に見放された自分と、母に捨てられた迅。どちらのほうが辛いか、などと比べる気は佑にはない。
 見放されて、辛かった。苦しかった。……悲しさと、寂しさもあった。
 きっと迅も同じだろう。生母は男と出ていった……とこだわりなく言っていたが、その当時はひどく傷付いたはずだ。腹を痛めて産んだ"子供(じぶん)たち"よりも、"余所の男(あかのたにん)"を母は選んだのだと。多分それは、とても痛い。

「ずっと外で生きてきた心山だからこそ、開けられる扉もあるのだろうさ。逆も然り、だろうがな」
「迅は……、」

 佑は晟の言を否定しようとしたが、言葉が出て来なかった。なので、思い直した。
 迅が自分とは正反対に近いのは認める。自分はやさぐれていじけて、寂しさを怒りにすげかえてしまったけれど、迅は恐らく真直ぐなまま今に至っている。
 ――その差、だろうか。晟が迅を異質だと言う所以は。
 歪みなく在って、この学園に囚われていないからこそ、迅にしか見えないものが在り、だからこそ迅には見えないものが在る。
 学園の因習に囚われひねくれた佑たちには、迅と同じものが見えないけれど、佑たちにしか見えないものもある。そしてそれを、迅は見られない。

「だから……光? 迅が」
「ああ」

 晟が頷くと、丁度雲間から陽光が降り注いだ。重たい雲の向こうでは、太陽は随分盛んらしい。
 佑には何故かその光の筋が、先日迅に見た光明と似て見えた。

「だからな、佑。お前だって心山の光になれるんだ」
「……俺が?」
「佑だから、な」
「あき……望月は?」

 言い直すなよ、と晟は苦笑した。それから、

「さァな」

 屈託なく笑って、佑の頭をゆるりと撫でた。


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