曇天の下にふたつ赤


 その飛び出していった鮮やかな赤は、駆けに駆けて屋上に来ていた。相変わらず空は曇天で、風さえも穏やかな心を持っていなかった。
 勝手に特等席にしている入り口の上まで行こうと、梯子に足を掛ける。
 幾段か登ってみれば、給水タンクに寄りかかっている、校内で最も会いたくない男を見つけてしまった。

「よう」
「……何でいんだ望月」
「ここはお前だけの特等席ではないって事だ。……おい待て帰るな」
「うるせえな」

 梯子を一段降りたところで、苦笑ともつかない溜め息を吐かれた。眉を顰め、晟を見る。

「帰る場所などあるのか」
「――ッ」
「どうせ、留守に何か言われて教室飛び出して来たんだろうが。何もしねえから、こっち来い」

 どの口が、と、佑は目の前の男を思い切り睨み付けた。
 殆ど初対面でいきなり寝込みを襲って来た男の、そのような言を、一体どう信用しろと言うのだ。

「不埒はしねえよ」
「……」

 どうにも疑わしかったが、その眸睛は真摯であるので、ひとまず頷くことにした。
 別段、本当に晟を嫌っているわけではないのだ。こうしてたまに見せる真摯な眸には、好意さえ覚えている。
 それでもやはり信じきれないので、一人分の距離を空けて腰を下ろした。
 こういった反応には既に慣れたのだろう。晟は何も言わず、ただ苦笑をしてみせただけだった。

「佑、お前、心山好きか」

 突然何を聞くのかと、驚いて晟の方に顔を向ける。紅は雲の向こうの遥かな蒼穹を見据えるだけで、真朱に向いてはいなかった。

「知らん」
「嘘を吐け」

 では好きだと頷けば自分を諦めるのか――と、無意識に眉を顰めた。

「離れた方が心山のためだと解っているくせ、離れたくないのなら、もう好きなのだろうよ。多かれ少なかれな。まァ、離れたところで心山は、ありゃあ自分から近付いていくだろうが」
「……だったら、なんだ。関係、ねえだろ、お前には」
「大有りだ馬鹿が。いいか佑、離れたくないのであれば、心山を守れよ。その必要はないかも知れんのだが、警戒するに越したことはない。何せお前の信者は度がすぎる」
「生徒会(おまえ)にだけは言われたくねえよ!」

 度がすぎるなどと、生徒会役員には一番言われたくないことだ。それが晟なら尚更である。
 晟の親衛隊だとて、過激がすぎる。
 声を荒げると、紅の双眸は漸う佑を捉えた。

「俺はちゃんと躾してンぜ。アレと関わりたくねえのは良く解るがな、今回ばかりは逃げてもいられんぞ、佑。心山を失いたくなきゃ、灸を据えておけ」
「……何でそう、余裕ぶるわけ」

 仮に迅を好きになりでもしたら、応援するとでも言うのだろうか。あれだけ毎日のように迫って来た男が。
 その様に思うと、いやに心底がささくれ立った。

「余裕? なわけなかろうが。……というかお前、何ぞ勘違いしていないか」
「なにを」
「もしかして、好きか否かを聞いたのが、恋情だと思ったか」
「……」

 無言は肯定にもなる。
 押し黙って晟をねめつけると、晟は微苦笑をしてから訂正した。


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