意外な事実


 部屋にいた佑から聞いた話しによると、生徒会は全員夜遊びをしていたらしい。
 晟と瑰奇はともかく、義隆までもが激烈だったと言われた時には驚いた。悖戻も激烈も総長が全寮制通いだから、連休や長期休みにだけ集まっていたそうだ。
 不意に大浴場前の談話室がざわめいた。また人気者でも来たのだろうと気にも留めずスポーツドリンクで喉を潤す。向かいに座る小早川が目を丸くした。それで振り向こうとした刹那、先達て聞いたバリトンが聞こえた。

「よう」
「……会長はんやないですか。ご覧の通り、佑はいませんよー」
「うん、佑が大浴場に来る訳ねえからな。お前を捜してたんだよ」
「俺を?」

 話がある、と言って、晟は周囲を睥睨した。耳をそばだてていた生徒らが散る。……見事なものだ。談話室には己と小早川と、晟以外いなくなった。

「俺、先に帰ってるね」

 小早川が晟に一礼して出ていった。

「別に構わんのだがな」

 小早川の背中を見送った晟が呟く。周りにいたような者らに聞かせるのは御免だが、小早川ならば良いらしい。ということは、大した話でもないのだろう。

「お前さ、京都にいたなら伯楽(ハクラク)、知ってるか」
「ああ、へぇ。ようく存じとります」

 伯楽というのは、左京区南部を中心にその近辺を占めているチームである。
 元は仲のいい面子が集まって遊んでいただけなのだが、売られた喧嘩を買っているうちにチームと見なされていた。それから更に喧嘩を売られる頻度が増し、総てを買っているといつの間にか現在の勢力となっていたのだ。

「伯楽の幹部さしてもろてましたよって」
「……、は?」

 何を言っているのだ、という顔をされた。紛れもない事実なのだが、どうにも信じがたいことらしい。これでも伯楽にその人あり、と言われていたのに。
 信じられぬ所以はわかっている。普通だからだ。
 髪を染めている訳でもなし、どこをどう見ても不良には見えないから、首を傾げられるのだ。

「マジかよ……」
「大マジです。俺としては、何で東京の会長はんが伯楽を知ったはるのかが、気になりますけども」
「……あー、京都に行った時な、どっかの雑魚に絡まれたンだよ。激烈の総長が敵前逃亡なんざ、笑い話にもなんねえから、相手してたんだが。……そんときに、お前ンとこの総長が来た」

 雑魚掃除と称して協力してきた、と晟が顔をしかめた。

「あいつの相手は、疲れますやろ」
「心底な。何だあのテンション。二度と会いたくねえわ」
「文化祭に来はると思いますえ」
「来させるな。いや来ても構わんが俺がいるとは言うな」

 それから一拍置いて晟が言う。東に激烈あらば、西に伯楽あり、と。迅は知らなかったが、そのように言われていたのだそうだ。尤も東の激烈は解散済みであるから、本当に過去のことだ。
 伯楽のほうは総長が地元にいることもあって存続している。少なくとも高卒までは残してあるだろう。伯楽が区一帯の長になってから、不良による悪事が減ったと言われているのだ。恐らく、法を犯すと伯楽の鬼が裁きにやってくる、といった噂がまことしやかに囁かれているためだろう。
 単にひったくりに遭遇した総長が犯人の胆を凍らせただけなのだが、似たような事例が多々あるがゆえにそんな噂になったらしい。鬼は、無法者が気に食わないからちょうどいいと笑っていた。

「しかし、意外だな。心山がチームの幹部とは」
「よーけ言われます。……チームといえば、佑もそうでしたな」
「悖戻な。成り立ちはお前のとこと変わらんらしい」
「……何でそないな名前にしはったんでしょ」

 悖戻。道理に背くという意味を持つ言葉だ。不健全ではあるが佑のことだ、道に背を向けるような集まりにはすまい。
 名を付けるとなった時、佑は何を思っていたのだろうか。

「さてな。俺にはわからん。いっそ不義の徒になってしまいたかったのかもしれんが。……惚れた奴のことが何一つわからないってのは、キツいもんだな」

 深く息を吐きながら、晟は苦笑した。
 そんな晟を見てふと思う。食堂前のことは、彼がわざわざ自分を見にきたのではないかと。敵情視察だったのだろう。では今の言は本心でありながら、深読みするなら手を出すなという牽制か。

「……。俺は、佑が不義になるなら全力で止めます。友達が道を踏み外すのをよしとするんは、そんなもんダチと違いますやろ」

 それを聞くや晟は、悪役のようににやりと笑んだ。やはり牽制もあったらしい。

「義隆の言も、あながち的外れじゃねえな」
「はい?」
「あいつはお前を、佑の鍵だと言った。心ン中にある扉のな。本当なら俺がそうでありたかったが――」

 確りと視線が交わった。
 虚偽のない眸をして晟は言う。

「お前に任せる」

 それは迅の心に、失せる事のないほど刻まれた。
 自分が鍵でありたいと望みながらも、新参者に敢えて託した心中は察するに余りある。
 だからこそ、目を逸らすことなく頷いてみせた。扉の向こうに、陽の光を入れてやると。




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