「にょろーん!」
生徒会室の扉を遠慮なく開け放って、義隆は首をかしげた。
「どーしたの? イライラいくないお! 飴あげよっかー?」
室内にいた三人は義隆を盛大に睨み付けるが、義隆は気にも留めず会計の席に着く。
「てめえ……俺でさえ真面目に仕事してるってのにどこほっつき歩ってやがった、義隆!」
「いやーん、あっちゃん怖い!」
「あっちゃん言うな!」
「ぶー。……わーかったよ! お仕事しますぅ!」
唇を尖らせながらパソコンを立ち上げる。義隆はこれでも一応、生徒会会計の椅子に座っているのだ。……会長以上のサボり魔、ではあるが。
「俺でさえ、って胸を張って言う事じゃなかろうに」
「いま働いてるから良いだろ、瑰奇(かいき)」
その仕事をサボりがちな生徒会長を、望月晟(もちづきあきら)という。東京にて名を馳せた激烈というチームの総長だった男だ。
晟を厳しく睨むのが、圷(あくつ)瑰奇。激烈副総長を務め、今は生徒会副会長に就いている。
「あんたがもっと早く真面目になってくれりゃ、入学式一週間前になってもこんなに忙殺されずにすんだんだよ。夏休みの宿題が終わらない小学生かよ、俺らは……」
「あいちゃん、ナイス喩え!」
「どこがだ、突っ込みどころ満載だろ! っつうか、テメエのせいでもあるんだよ! あとあいちゃん言うなぁぁぁぁ!」
怒りに任せて義隆にボールペンを投げ付けたのが書記の関愛宗(せきちかもと)だ。彼は激烈ではなく、佑がリーダーをしていた悖戻(ハイレイ)というチームの幹部だった。あいちゃん、と言われる事が何よりも嫌いな短気な男だ。
「うるせえなあ……」
晟は代表挨拶の草案を書きつつ、煙草を銜えようとして、
「室内禁煙」
瑰奇から飴を目の前に落とされる。
実はこの飴は義隆が隠していたものだが、義隆が愛宗に夢中なのを良いことに勝手に"貰い受けた"ものだったりする。
「……」
「佑は煙草の臭いが嫌い」
「ぐ……」
大人しく、取り出した煙草をケースにしまった。佑を出されたら、晟は従うしかない。中等部時代、吸った直後に佑に抱き付いたら、本気で殴られたことがあるのだ。
「あん時ゃ……歯ァ持っていかれるかと思ったぜ……」
停学処分を食らって以降、佑は晟を徹底して避けた。だが避けられる理由がわからない。
――助けて欲しそうな目をするくせに。
同室者を殴った理由にしろ、理由になっていなかった。
「あ、そーいえば、佑の新しいどーしつ者と会ったよ」
「どんな奴だった」
「へーぼん。……でーも、もしかしたら佑の鍵になるかも」
「鍵……?」
かたくなな心の鍵だ、と笑った。
晟は自分でないことが不満だし、愛宗は鍵なる存在そのものに嫌悪を示した。そんなものはいらない。誰も寄せ付けなくていい。
……佑は、孤高の赤なのだから。
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