彼女と過ごし始めて、早一週間。


少しずつ分かり始めてきた、彼女のこと。

好きなもの、嫌いなもの。
得意なこと、苦手なこと。

そして、彼女と暮らす上で分かった、


新しい問題。



弐:發現自己

森で拾った少女・朝陽と暮らし始めて少し。
彼女は礼儀正しいし、口数は少ないけれどきちんと挨拶もする。
食事をするときの表情が一番豊かかもしれない。
美味しい、美味しいと言って食べてくれるのだから、こっちの頬も緩みきってしまう。

私が男な故に、まだ慣れず条件反射で睨まれたり弾かれたりはするものの、
動物の雄を除いて他の男よりかは懐いてくれていると思う。


彼女、朝陽の日課は、私の家事を手伝うことと、
庭で付近の森からやって来る動物たちと昼寝すること。

特にこれといってやりたいことが無い、という朝陽。
多分もう少し落ち着いたら道場にも顔を出してくれるだろう。



「風、」

「はい」

「風は、武道の師範だと聞いた」

「そうですね。それが、どうかしましたか?」

「強い?」

「一応…。朝陽、何が言いたいんです?」

「…………、組み手」

「?」

「組み手を、してみたい」




昼食を終え、片付けも済ませた私たちは、お茶を飲みながら暇を持て余していた。
そんなとき、朝陽が突然そう言い出したのだ。

滅多に彼女から話し掛けてくれたりはしないので、聞いてやろうと思うのだが、
遠回しな言葉ばかりでよく分からず、聞けばこのとおり。
なんでも、朝陽は体術には少し自信があるとのこと。
旅中で何かあったときはよく駆使していたのだとか。
自然と身に付いたのではなく、記憶を失くす前から得意としていたらしい。
気が付けば使っていたので、彼女は特に気にせずそのままにしていたらしいが。


私は朝陽の要望に応えるべく、動きやすいものに着替えて、
朝陽にもそうするよう言った。
いつもの庭で、ほんの少しだけやることにした。彼女の身体は、まだ全快ではない。


上着は羽織っていないが、袖は長く丈の短い蒼の中国服に、黒い膝下のブーツ。
初めて彼女を見た時とあまり変わらない出で立ち。
私は、彼女とは違って丈が膝下まである男物の中国服にブーツ。
いつも稽古をするときとあまり変わらない格好。

二人で庭に立つと、朝陽の目はあまり見ない、
期待に満ちた、というのだろうか。とにかくキラキラした瞳だった。


「じゃあ、手合わせ、よろしく」

「お手柔らかに頼みますよ」

「うん。風も」

「はい、分かってます」


そう言うと、朝陽は駆け出した。正面から入って、右拳を強く突き出す。
私はそれを左掌でいなし、左足を後退させ足場をしっかりさせてから、
右拳を彼女の腹部めがけて突き出した。
後方に跳躍してそれを避けた朝陽は、回り込むようにして私の右側へ
走りこみ、その勢いで左足の蹴りを繰り出す。
私がそれを左に跳躍して避けると、想定していたかのように朝陽は
左足を地面につけるとそのまま後ろに宙返りしてまた突っ込んでくる。

力強くもしなやかで軽やかな動き。
朝陽は踊るように組み手を楽しんでいた。

「ごめん、調子が戻らないから、うまく手加減できない」

「する気ないでしょう、最初から」

「ごめん。…でも、楽しい。風、強いから」

「嬉しいですが、…………っと」

「!!………ふ、風!」

「失礼。そろそろ終わりにしましょう」


高く跳躍、踵落としをしてきた朝陽が爪先を地面に触れさせた瞬間に、
私は彼女の腕を掴んだ。下手したらまた突っ込んでくるつもりだったろうに。
彼女は触れられるのが嫌なことを分かっていたので、すぐに開放してやりそう言えば、
朝陽は少し不満そうにするもフラついたので、素直に頷いて縁側に腰掛けた。
私が隣に座っても何も反応は無い。多少慣れたようだ。


「謝謝、風。とても、楽しかったよ」

「それは良かった。朝陽も強いんですね」

「そう?でもきっと、風には勝てない」

「男女で力量に差が出るのは当然です。気にすることありません」

「ふふ、大丈夫。また今度、元気になったら相手してくれる?」

「元気になったら、ですよ。それなら、いくらでも。時間さえあれば」


朝陽は再び謝謝、と言うと私の肩に凭れてきた。
急だったので吃驚したが、彼女が満面の笑みでいるから、そのままにした。
それに、されていて悪い気はしないし、むしろ少し心地良かった。

自分はこの少女にどんな感情を抱いてそんな心地になっているのやら。
朝陽はまだ17、立場として私は保護者のようなものか、それとも。

いや、保護者でいい。保護者でないといけない気がする。
ないない、と頭を軽く横に振れば、朝陽が「風、どうかしたの?」と
聞くので、余計に冷や汗を流しそうになった。

とりあえず、今は再び肩に凭れる朝陽の優しい重みに、
懐かれているだろうか、と一人微笑むことにした。



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