何故か、粥を作っているだけなのに顔が火照る。

あの後、用意されていた朝陽の服があまりにも薄かったから、
自室から自分のものを持ってきて着せた。
あまりにもぶかぶかで、やはり朝陽は女性なのだと思わされた。
(少し前お前細すぎだろ≠ニリボーンに言われたことを思い返しながら)


朝陽が男性にしばしば狙われたというのの原因は明白。
彼女自身“そういう”ことに疎いから、だろう。
上の下着はシャツしか用意されていなかったし、
(いやそれはそれでホッとしたが)(朝陽の胸着など直視できない…)
結局服一枚でも何も言わないあたり……相当だ。


粥が出来たところで、器によそり、レンゲと共に盆に乗せ、朝陽の部屋へと
足早に歩を進める。

静かに障子を開けば、横になっていたであろう朝陽がゆっくりと起き上がっていた。
粥を持ってきました、そう言えば少しほころんだ笑みを見せる朝陽。


彼女のすぐ傍に持っていき、一度盆ごと粥を近くの机の上に置く。
朝陽の額にもう一度手を当てる。…あまりさっきと変わっていない。

「……………風、食べて、いい?」

「あ、はい。熱いかもしれないので気をつけて」

「ん…………、」

器を彼女の膝に乗せてやって、レンゲを持たせる。
謝謝、と小さく言った後、朝陽はほんの少し粥を掬って、口へと運んだ。
はふはふ小さな口で食べる姿は何度見ても可愛らしく思えてしょうがない。
黙々と粥を食べ進めていく朝陽に、美味しいですか、と問えば、
食べることを休めぬままこくりと頷いた。

今の時刻二十二時。朝陽が倒れてから五時間は経っただろうか。
本来食べるはずの時間に眠っていたのだから、空腹だったのかもしれない。
彼女が眠っている間に私は食事を済ませておいたのだが。




「…………、ごちそ、さま」

「はい、お粗末さまでした。気分はどうです?」

「ん…………、」

「平気そうですね。では私は片付けを…」

「あ、」


おや?


朝陽が、私の服の裾をしっかと掴んでいる。
弱弱しく見える手つきだが力は少し強めに入っていて、ほんの少しよろめいた。


「………………、ふぉ、ん」

「はい」

「片付け、」

「?」

「終わったら、来て」

「…………、」

「だめ?」

「いえ……、分かりました、済んだらすぐ戻ってきますね」

「ん…………」


人肌が恋しい、か。
捨てられた動物のような目で言われたら断れるわけもなし。
まあ断る理由もありませんし。



再び足早に台所へ戻る私は、やはり心のどこかで朝陽に対し
普通の女性とは違う感情を持ち始めているのではと思う。


そう、ほぼ確信に近い、感情。






風は戻ってくると、横になる我の隣に椅子を持ってきて座った。


「朝陽………、提案なのですが、」

「ん………」


風が新しく取り替えてくれたまだひんやりとする手拭いが、
額から落ちないように視線だけ彼に向ける。


「体の調子が好くなったら、町に一緒に出掛けてみませんか?」

「ま、ち………」

「貴女に新しく季節ものの服を買ってやりたいですし、あとは、
……………そうですね、人に慣れる、という訓練にもなるでしょう」

「町は、人間、たくさんいる?」

「はい。男性も多々いますが…、私が隣にいるだけでは、落ち着けないでしょうか?」


男が、いっぱい………。


嫌な記憶が脳裏をよぎる。
いやだ、男は、いやだ…。

でも、風が隣にいたら…、



風は組み手をしても分かったけれど、とても強い。
きっと、全快の我でも勝てないと、思う。

だから、そんな信用できる£jがいるなら、





平気、かな。






「わかった、」

「良かった…。ですが、風邪が治ってもしばらく体力がついてくるまではお預け、ですね」

「なんで?」

「人混みを歩くのは、結構疲れますから」


そうっと優しく我の頭を撫でる風。
体調を崩してから、彼に触れられることを身体が特に拒否しなくなった。

ふわふわ、そんな心地になって、ゆっくりと眠気が我を襲う。
風に拾われたあの日は、こんな心地しなかった。
本当に、何もかもが空気に溶けていくような、そんな気持ちだった。


ゆるゆると瞼が落ちてきた頃、風は言う。


「私の仕事仲間に、女性の知り合いがいます。
優しい方ですから、今度紹介しましょう。一緒に服を選んでもらってはどうです?」



子守唄みたいな声音。

擦れる声で、うんと返事をした。



風、どんな仕事してるんだろう。





ぼんやりと眠りの暗闇に吸い込まれていく中、

彼が優しい方≠ニ言った女の存在に、



また少し、胸の奥がぎゅうっと苦しくなる感じがした。











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