まだ夕食ができるまで時間がかかるので、
先に入浴してくるよう朝陽を促してから、大分時間が経っている。

そろそろ上がってきてもおかしくはない。


私は先ほどのまったりとしたのとは打って変わって、台所に再度立ち、
煮込みを再開していた。もうすぐ完成だ。

おたまで一掬い、小ぶりの器によそって、味見をする。
…なかなか。朝陽は気に入ってくれるだろうか。

鍋に蓋をし、もうしばらく煮込むかと決めた頃、カタンと物音。
朝陽が風呂から上がったようだ。
そのうち居間に来るだろうと調理台に向き直っていると、
………おかしい。いつまで経っても朝陽が居間に来ない。

迷うはずもない(朝陽は私の自室と自分の部屋と居間くらいしか知らない)し、
そもそも廊下を歩くような音すらしない。


さすがに様子がおかしいと思った私は、火を止めて、台所を離れ
朝陽のいるはずの風呂場まで行ってみることにした。



























頭が痛い。

ぐらぐら、まるで湯が沸騰するように、痛い、熱い。


なんとか脱衣所まで身体を引きずってこれたものの、タオルを身体に巻いてから、
全く身動きが取れない。

嗚呼、風はこの異変に気付いてくれるだろうか…。


風の声が聞こえた気がした。その時、




目の前が真っ暗になった。


















――――――――…………

―――――…朝陽…


「朝陽ッ!!!!!起きなさい、朝陽!!!」

「…………ん…ぁ……………ふ、ふぉん…」

「そうですよ、気が付きましたか?どうしたんです、こんな…格好、で…」

「あ、たま…ぐらぐら、する、」

「頭?…………いけない、すごい高熱…動けますか?」

「……む、り…からだ、おもた、い……」



脱衣所に辿り着いて、物音がしない代わりに荒い呼吸音が聞こえることに気が付いた。
一応ノックをして戸を開けば、タオルに身を包んで座り込んでいる朝陽の姿。
壁に背を預け、ぐったりした様子で荒い呼吸を続ける朝陽に、
私は彼女と出会った数日前を思い返す。

やはり本調子でないのに組み手をしたことで体調が悪化したのか、
それとも、他の何かが原因か。

朝陽の肩を掴んで軽く揺さぶる。
声をかけ続けていたら、しばらくして朝陽がゆっくりと瞼を開いた。
ホッとしたのも束の間、未だに虚ろな瞳の朝陽にもう一度声をかけた。
彼女が異常であると判断した箇所、額に手を当ててみれば湯熱のような温度。
これならばぐったりしていてもおかしくはない。

とにかく私は傍にあったもう一枚のタオルで朝陽の髪を拭いてやり、
腕や足など冷える箇所を出来る限り拭って水気を取り払ってやった。

気が付けば朝陽の瞼は再び落ちていて、まだ苦しそうな表情を浮かべている。

早く服を着せてやらないと、



ふと考えてみる。
年齢に差はあれど朝陽は女性で、私は男性で、お互い異性であって、
勝手に服を着せてよいものか。
いや、正しくは、…その………、

彼女の裸体を、目にするわけであって。


実質3秒ほどの時間、私はまるで1時間にも及ぶような長い葛藤をした末、
これ以上朝陽の体調が悪くならないよう服を着せることにした。
………というか、彼女の裸体を見ることを覚悟した、のほうが正しいか。


タオルが肌蹴て、更に露出度を増す朝陽の身体。
無意識のうちに顔が火照っていくのが分かる。
透き通った白い肌。まだ健康状態とは程遠い肉付きの細い身。
なのに出るところはしっかりと出ているという、皮肉にも誘惑されるその姿。

意を決してタオルに手をかける私の心内で、

嗚呼、自分も疾しい心を持った一人の男なのか、

とやや落ち込んでいたことは確かだった。



―――――………



「…………………」


目が覚めたら、自分の部屋に居た。
ベッドに寝かされていて、額には硬く絞られて湿った手拭いが乗っていて、
身体が未だに火照っていることから、風邪でもひいただろうかと胸中で呟く。

頭が先程よりかは軽くなっている気がして、あのまま放置されたらきっと
もっと酷くなってたんだろうな、そう思いつつゆっくりと身体を起こす。


「…………………、」


ふと、身体を見た。…あ、服、着てる。
でも丈が合っていない。肩幅も服のほうが大きくて鎖骨辺りが露になっている。
だけど我が持っている服とは違い、少し厚手のもので、もしかしてこれは風の、


「………………………、風、」


つまり風が部屋まで運んでくれて服を着せてくれたということになる、

だけど少し肌寒いことからどうやら自分は下着をつけていないようだ。
普段は鬱陶しくて着ない足首までの裾、それがあるお陰で足はそれ程寒くない。
分厚い掛け布団に変えられている。きっと此れ一枚じゃ悪化させると風が考えたから。


風、居ない…。



色々世話をしてくれたであろう彼自身が見当たらない。
心の何処かが少し不安なのか穴が開いたような気分だ。




探しに行こうかと思ったその時、カラリと障子が開けられた。


「おや、目が覚めましたか」

「あ、」

「熱は…、額、触りますね」

「ん……」

「…………まだまだ下がりそうにないですね…。
朝陽、食事は?」

「…できる」

「じゃあ、直ぐに粥を作ってきますね。きちんと安静にしていてください」

「わか、った……、」


風はすぐ傍まで寄ってきて、膝をついて我の額に手を当てて、眉を顰める。
自覚は無いがまだ熱は高いらしい。
すくっと立ち上がると、さくさくとまた障子の方まで歩いていってしまう。
なんとなく、まだ傍に居て欲しかった、気がする。
昔世話になった人に、『風邪をひくと人肌が恋しくなるのよね』と教えてもらったことをぼんやり思い出した。



「あ、……………それから、」

「?」

「服、勝手に着せてすみませんでした」

「…………え、」

「その、身体……見てしま、って」


こっちを向かないけど、じわじわと赤くなっていく風の耳。
恥ずかしい、の?


「べつに、」

「はい?」

「………なんで、風は恥ずかしい?」

「………………は、」

「別に我は、誰に見られてもなんとも思わない」

「………………朝陽、あなたもしかして、」

「ん?」

「いえ…………………、台所、行ってきますね」

「ん」



ちらとこちらを見た風。
着てる服の色みたく真っ赤になってて、少し面白かったけど。

ぷいともとの方向に顔を戻すと、そうっと障子を開閉して、
風は部屋を出て行った。








…………………なんで?












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