Hello,How are you doing?
I'm...あぁ、ごめんなさい。最近は日本語を使っていなかったから、すこし忘れていました。
日本の皆さん、こんにちは。私サーシェは、現在ダリルくんと二人暮らしをしています。

すっかり平和になった、とは言いがたい心持ちのままだったりはしますが、それなりに穏やかな毎日を過ごしています。
そこで、今日は特別に、皆さんに私たちの日常を切り取ってご紹介します。




サーシェ




【a.m.5:30】


おはようございます。サーシェです。
昔に比べればだいぶ眠れるようにはなりましたが、相変わらず私は早起きです。目覚まし時計が鳴るより早くに目が覚めるので、ダリルくんが起きるまではぼーっとしています。

いま私たちが住んでいるのは、元より彼と彼のお付きのハウルさんが一緒に住んでいたセキュリティマンションの一室です。ハウルさんが引き払ったあとのお部屋に、私が引っ越してきました。
アメリカサイズにしては小さめなお部屋なので、いつか家族が出来たら引っ越そうとは言いますが、彼も私も案外この狭さを気に入っていたりします。

そんな狭いマンションルームの一部屋、寝室に宛がった此処には、ダブルベッドなんてすてきなものはありません。そもそも、最初の頃はダリルくんの部屋が別にあったので、私はハウルさんがいた部屋にまるまる荷物を移しただけでした。
けれど、独りの寝覚めが苦手な私がわがままを言って彼のベッドで一緒に眠るということを繰り返した結果、この間模様替えをすることになって、部屋も個別ではなく寝室と作業部屋に変えることになったのです。

狭い部屋にベッドをむりくりに二つ置いているので、隙間のないようぴったりと合わせられています。一緒のベッドで寝たりしていたくせに、これはこれで妙な距離感があって、慣れるまではすこし緊張したりしました。
部屋のクローゼットには主にダリルくんの服が入っていて、私のは作業場の傍の棚にしまってあります。嗚呼、もうカーテンの向こうが明るくなってきた。そろそろ6時かな。


「……んん、」

「おはよーう」


私は熟睡中を邪魔されたみたいな顔になって起きる瞬間のダリルくんを見るのがすきです。早起きしてよかった、と毎日思います。
枕に顔を埋めてから、ちらりと私を見てふと微笑うダリルくん。


「……なんだよ」

「なにが?」

「こっちみんな」


ゆっくり伸びてきた彼の手がもしゃもしゃと私の頭を撫でくり回します。よかった、今日は優しい寝ぼけ方で。
疲れがたまってたり、課題で徹夜した次の日とかは起き抜けから機嫌が悪かったりするので、一苦労です。彼、私よりずっと繊細だから、外で疲れることもあるみたい。

時計のアラームが鳴り出す頃には二人とも体を起こしていて、片や着替え、片や洗顔にと動き始めます。
今日は水曜日。私は週休、ダリルくんは2限目から大学で講義。すこしゆっくりとした朝です。


【a.m.6:40】


私が朝仕度ついでに洗濯機を回してリビングに戻る頃には、テーブルに美味しいブレークファストが用意されています。今日のメニューはホットドッグとカフェオレ。
いつだったか私が借りたエプロンを愛用している彼は、そのままお昼ご飯の用意も進めています。テレビをつけて、朝のニュース。最近は近づくオリンピックの話で持ちきりです。

粗方すませると、彼も一緒に席についてホットドッグにかじりつきます。今日の予定をお互いに報告して、ダリルくんは帰宅時間を伝えてくれます。大学のあとのバイトも今日は早上がりみたい、20時に帰ってこれるそうです。


「今日のご飯はー?」

「朝からディナーの話かよ」

「楽しみに今日をがんばる」

「今日お前休みじゃん」

「執筆……」


まぁ、作家のお仕事は休み休みだからそこまで切羽詰まってないけど。


【a.m.8:00】


「じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃーい」

「外出るなら戸締まりすること」

「わかってるよー心配性だなぁ」

「心配もするっての……お前はいつもそう言って、」


ダリルくんは家を出る前にこうして3分ほどお小言を言います。
毎日のことだから慣れたけれど、不思議とうるさいなぁとは思いません。愛されてるなぁとほくほくします。

まぁこれが原因で朝から喧嘩したりするんだけどね。


「も〜っ遅刻するよ!」

「講義10時からだから余裕」

「学校まで一時間半かかるんでしょっ」

「遅延してないし大丈夫だよ」

「エドさんになんかソフト渡すって言ってたじゃん」

「そうだけど、あいつは……いいよ」

「いいよって何」


うだうだもだもだ。実はダリルくんを送り出すのは至難のわざで、ほっとくと遅刻ギリギリまでこうして私と玄関で押し問答します。
几帳面で根は真面目だからサボったりはしないけど、それはそれでいかがなものか。


「はいはいいってらっしゃい」

「えーハグだけ?」

「帰ってきたらね!」

「ちぇ」


要するにそういうことです。
素直じゃないから名残惜しいとか言わないけど、つまるところそんな感じなんです。
5年ぶりに再会して、まだまだ二人の時間が足りないように思うのは私だって同じ。でも、せっかく手にしたフツウ≠フ日常は大事にしなくちゃ。


「いってきます」


鼻先と唇をくっつけるだけのキスをして、したり顔で出ていく彼。
何度目かわからないいってらっしゃいの声音がぶすくれてしまったのも、仕方ないことだと思うのです。


【a.m.10:00】


ダリルくんを見送った私は苦手な家事に精を出します。片付けやら掃除やらは勿論綺麗好きな彼の方が得意ではあるのだけど、食事に関して任せているだけに他をやらないわけにもいかなくて。
基本的なことは独り暮らしをしていた間に身に付けたので、これといって問題はありません。ただ、時々掃除機をかける途中だとか、洗濯物を干しているときだとかに、私こんなことしてていいのかな、とは思うことがあります。

殺すことしか知らなくて、化け物だ死神だと言われながらそれでも優しいひとたちのなかで細々と生きていた自分が、当たり前のようなフツウの日常に身を置くことに……時折違和感を覚えるのです。

すきなひとと暮らして、毎日幸せを感じて。私に許された幸せなのかな、って。
どんなに考えても、もう後戻りは出来ないし、思い悩むたびにダリルくんは話を聞いて慰めて、一緒に考えてくれるけど、これ以上の結果は見えてこないことも薄々気付いてはいるのです。

幸せに罪悪感を感じながら生きる。心からの幸せは許されない。それが、私に出来る贖罪なのだと、自分に言い聞かせるしかないから。


でも、そう考えると、本当に不思議な巡り合わせだと思います。
軍に身を置いていなければいつかは飢え死にしていただろう私と、正反対に物質的に恵まれていた彼。軍がなければ出会いもしなかっただろうし、此処までお互いを絶対にして思い合いもしなかったことでしょう。
しかもそれが、かつての身分を捨てた完璧に新しい生活に繋がるだろうなんて、あの頃は思いもしなかったし。

私はともかくとしても、ダリルくんは本当にこれでよかったのかな。殺してしまったとはいえ、お父さんから引き継ぐものはあったんじゃないのかな。
お屋敷は取り壊してしまったらしいし、相続した遺産も日本の復興に寄付した節があるみたいだし。私が心配することじゃないかもしれないけど。



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