【p.m.0:30】


テレビを見ながらお昼ご飯。昨日の残りのミネストローネと今朝作ってくれたホットドッグを温め直していただきます。
テレビをつけて、最終的に録画のドラマに落ち着くのはいつものこと。食事しながら平気で科学解剖サスペンスとか見てしまうのは常人のセンスとしてはいかがなものか。
たまに恋愛ものとかも見るけど、こう簡単にはいかないよなぁとか一丁前に思ってしまって素直に楽しめないです。

おや、ダリルくんから着信。メールみたい。

『お昼食べた?』

食べたよ、ごちそうさま。


【p.m.4:00】


テレビを見ながら寝落ちしていました。ソファーから身を起こしてテレビを消すと、洗濯物の取り込みにかかります。
あー、お昼の洗い物もしてない……。

学校がある日はダリルくんと一緒に家を出て、大体この時間くらいまで仕事をしています。


【p.m.5:40】


小腹がすいたのでお菓子をつまみがてらPCを起動。
作家のお仕事……と思いきや、ネットサーフィンにのめり込みます。特にこれといって興味があるというより、適当に流し読みしている感覚。
あ、でも最近はペット愛好家のブログを漁ったり、本や雑貨、あとはゲームや映画なんかも探したりしています。いいのがあると購入したり、ゲームとかは休日に二人で楽しんだりしています。

でも基本的にあまり外に出ないからね、私も彼も。
映画も自宅視聴派です。


【p.m.7:10】


本を読んだりゲームをしたりして時間を潰していると、予想外にも予定よりずっと早くにドアを開ける音が聞こえてきました。
玄関まで行ってお出迎え。おかえりなさいを言うより先に抱きしめられて、抱き返しながら早かったねと言葉をかけます。


「空いてたから早上がりさせてもらったんだ」

「そうなんだ、おかえりなさい」

「疲れた」

「うん、お疲れお疲れ」


頭を撫でてやると、何かを期待するような目を向けてくるので、やれやれと背伸びをしご褒美にキスをする私。顔を離すと、物足りないとでも言うように追いかけてきてまた唇を重ねる彼。あの頃の私たちを知るひとが見たら、こんな甘ったるいバカップルは知らないと首を振ることでしょう。
私も慣れるまで時間がかかりました。未だに緊張してしまいます。


「ん、」

「……ダリルくん」

「何?」

「おなかすいた」

「わかってる」

「おなかすいたー」

「もうちょっと」


どうやら今日はいつになくお疲れ……というより、やけに寂しかったようです。


【p.m.8:00】


夕御飯。今日のメニューはボロネーゼ。ダリルくんは本当に料理が上手です。
美味しい美味しいと言って食べると少し嬉しそうにしてくれるのも、彼のご飯を食べるときの楽しみ。


「今日は何の講義だったの?」

「ドイツ語と物理科学と……、そうそう、今日機械工学の実験があって、」


学校の話をするダリルくんは楽しそうで、時々話の中に分からない単語があって質問すると、得意げに説明してくれます。
友達の話もよくしてくれます。エドさんがこの間のテスト悪かったのにまた講義サボったとか、スタンリーさんは居眠りしながらノートに芸術を描くとか。昨日はグレイさんがお昼を忘れて皆で分けたとか、なんでもない日常をそれとなく口にしてくれるのです。

この間倒した敵機が、とか、シュミレーションの結果云々ではもっと殺せた、とか、そんな殺伐とした会話でないことに何処か欠如した安堵感を覚えては、平和の尊さを改めて感じさせられて。
ああほら、今日も彼の唇は幸せのひとときを語り紡いで止まりません。


【p.m.10:30】


食休みに肩を並べてテレビを見たりゲームをしたりと一通り楽しむと、二人揃って作業部屋に身を移します。
ダリルくんは勉強とか課題、私は学校の書類制作や小説の執筆。やってることは違うけれど、疲れた時にふと振り向いて頑張ってる姿を見ると、お互い頑張れるものなのです。


「……ねぇ、ねぇサーシェってば」

「…………」

「ちょっと、聞いてる?聞いてないだろ、イヤホンして。おーい」

「っ、ちょ、なに。いまいいとこ……」

「終わった」

「わかったから。先にお風呂いってきたら?」

「やだ」

「も〜邪魔しないでよ……」


こんな日もあります。


【a.m.0:10】


やることをある程度済ませたら、お風呂に入ってあたたまります。
髪を乾かし合って、ほっこりした頃、一緒になってベッドに入ります。


「今日どうしたの、ずいぶん構ってしいだったけど」

「別にー?」

「ダリルくんあつい」

「いいじゃん、落ち着くんだから」


ダリルくんに抱きしめられたまま、眠りにつきます。

あれだけ不眠だった私だけど、彼と一緒に眠るときはぐっすりなのだから、彼は魔法でも使っているんじゃないかな。
ふふ、これは冗談だとしても、それだけ彼に信頼をおいているのは本当の話。


「……今日さ」

「うん?」

「告られた」

「ありゃ。モテモテだねぇ」

「別に、モテてなんかない……」

「うん、それで?」

「それだけ、だけど……」


温もりに包まれた微睡みの縁でこぼす彼の言葉は、すべからく本音そのもので、だから私は、聞きこぼしてしまわぬように、一生懸命耳をすまします。


「そいつ、僕のことを好きな理由を言ったんだ。大人っぽくて、優しくて、笑顔が素敵だから、って」

「うん」

「本当の僕を、知らないんだ……って思ったら、その……」

「うん、」

「だってさ、」


僕は、元死刑囚で、人殺しで、一生消えない罪を背負ってるのに。
僕自身だって、本当はこんなだし、その……まだまだ大人になんてなりきれてないし、優しいのなんて、一部の人間にだけだよ。まだ、お前やローワンみたいな優しさは、上っ面しか分からないんだ。
こんな僕が心から笑っていられるのって、サーシェだとか、あいつらサークルの奴の前だけだし。

なのに、周りから見た僕って、そんななのかなって……思って、自分の中との違いに、ちょっと、複雑に、なった。


ぽつり、ぽつり。雫を垂らすように、少しずつ言葉にしてくれる彼。
頭を撫でてやると、彼の薄い瞼が震えて、私の大好きなすみれ色が覗いて、ゆらゆらと私を写し込みます。


「ゆっくりでいいんだよ、そういうものだって分かるまでは、ちょっとずつ慣れていこう」

「………うん」

「皆が皆、私たちの本当の姿を知ってるわけじゃない。でも、本音を出せるひとが誰一人いないわけでもない。
それでいいんだよ、ちょっと疲れたと思ったら、また気分転換すればいいの」

「………うん、わかってる」

「今日は、びっくりしたんだね」

「……たぶん」

「そっか、そっか」


私がいない間、彼はこういう話をハウルさんにしたのだろうか。
フツウに適応するには、私も彼もまだまだ時間がかかるのだと思います。はぐれもの同士、世間のはみ出しもの同士、一緒に思い悩んで考えることができるというのは、本当に大事なこと。だから、二人で、時には周囲の人にも助けを借りながら、少しずつ頑張っていこうね。








おやすみなさい、だいすきなひと。
どうか、夢の中も君が笑顔でいられますように。

そうしたら、またまばゆいお日さまの光を浴びて、明日もおだやかに過ごせるだろうから。
だから、それまでは、おやすみ。



ちょっとずつ大人になっていく二人のお話。
ダリルくんが甘えんぼなのは、そういう自分をさらけ出せる相手なんだと再認識するため。
誰にでもあると思うんです、自分の内と周囲のギャップに驚いて、安定した自分でいられる場所は何処かなって悩んでしまうこと。
この二人は、いまに至るまでの経緯が特殊なだけに、そういうことには特に臆病になりがちなんだということ、がらりと変わった生活の中でもお互いの存在に助け助けられしながら過ごしているんだということ。
そんなことが書きたくてこのお話が出来上がりました。





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