「格好つかないだろ?着任したからには一発決めないとさ!」


夕方も過ぎて、薄暗くなってきた頃。
私は、嘘界さん、ローワン、そして少尉と一緒に、ある上官の前に立たされていた。

今時の軍隊には珍しい、でもいてもおかしくない、丸太みたいに筋骨隆々とした体躯のその人を見上げながら、爽やかに暑苦しい人だなあと思っていた。
そのせいか、皆何処か気乗りしない感じで、少尉は珍しくおとなしく話を聞いているようで、じと目で彼を見上げていた。さっきから彼の応対をしているのはローワンだけで、ローワンも気まずそうに視線をちらちらさせながら口を濁している。嘘界さんに至ってはガン無視で携帯をいじっている。見向きもしやしない。


「お前達は今日付けで俺の部下だ!ガッツ出していこうぜ!」


真っ白い歯が、きらりと光った。無駄に彼の周囲が眩しく輝いて見える。私は目を細めた。

彼の名は、ダン・イーグルマン。大佐だ。
結局、昨日嘘界さんと局長がGHQ最高司令長官ヤン少将に掛け合った結果、アンチボディズは解散、所属していた者はイーグルマン大佐の部下として所属を新たに働く、というものになった。
今まで数々の上官さんにはお世話になってきたけど、彼のような熱血漢タイプの人は初めてだ。私を嘘界さんから借りる$lは、大抵ねちっこく手柄に拘るタイプの人で、成果が出せないと厳しく扱われたし、時には体罰を与えられたりもした。
しかしどうだろう、彼はどう見てもそういう人間じゃない気がする。根っからのイイ人って感じだ。明るい人柄が、私とは正反対のようにも思えた。

不意に、ローワンが声を出した。


「………お言葉を返すようですが、イーグルマン大佐───」

「ダンだ!親しみを込めて、ダンと呼んでくれと言っただろう?」


話を聞かないタイプの人っぽい。ローワンの言葉を遮って、大きく抑揚をつけた声音で朗らかに笑いながら言うダンさん。最後に、ウインクをしてみせた。
されたローワンは、がくりと肩を落としながらも、挫けることなく眼鏡の位置を直しながらもう一度口を開いた。背中に、もううんざりだ≠ニ書いてある。彼もまた、ダンさんとは違う意味で正反対な中身の人間だ。


「……では、Mr.ダン。ドラグーンは地対空ミサイルで、洋上の艦艇を狙うのは現実的ではありません。大型艦艇を攻撃するなら、地対艦ミサイルを使用するべきでは?」

「もちろんだ!だが、残念ながら俺の自由になったのはここにあるドラグーンだけだ!ならばある物で何とかするのが真の軍人というものだろう?
銃がないならナイフで突け!ナイフがないならその時は──」


ぐっと拳を握りこみ、掲げて見せるダンさん。笑顔が眩しくて直視できない。


「こいつでぶん殴れ!それが軍人ってもんだろう?確かにドラグーンは船を攻撃するには向かないかもしれないが、こいつだってミサイルには違いない!一発一発に威力がないなら効果が出るまで撃ち込め!」


隣で嘘界さんが肩を震わせた。くつくつと喉の奥で笑う声がする。

そもそも、どうして一歩兵である私が召集を受けたんだろう。銃器及び歩兵が用いる程度の重火器なら一通り使いこなせるけれど、ミサイルとなれば専門外だ。
今回の作戦がミサイルをぶち込むだけなら、私は作戦に参加することも必要なかったはずなのに。その証拠に、私は今、いつもミッション時に着るような武装スーツではない。いつも通り私服だ。それでいいとダンさんに言われた。
少尉はエンドレイヴスーツに身を包んでいる。大体の作戦概要は聞いた。多分、彼はドラグーンの護衛及び非常事態の保険として駆り出されただけだろう。彼の背中にも、つまんない。飽きた≠ニ既に書いてあるのが見える。

船の話は興味がなかったので聞き流す。どうやら、現臨時政府を快く思っていない、葬儀社とはまた別の反対勢力が今晩洋上で船上パーティーを行うらしい。その殲滅だとか。


「ほとんどの日本人はわかっているんだよ!僕らGHQがいなくっちゃ、この国はどうしようもなく回らないってことをね!」


声高々に言うダンさん。そこらへんにいた歩兵たち、臨場用コクピットを乗せた装甲車の周りであれやこれやと調整をしていた技術者の人たちが、皆何事かとこっちを向いた。
召集を受けた私たち以外にも本作戦で出撃を命じられた歩兵は数名、しかしその誰もが武装し、非常事態に備え銃器を装備している。彼らも同じようにドラグーンの護衛を命じられているようだった。


「他に何か質問は?」

「ダンさんダンさん」

「なんだい、ガール?」

「地対空ミサイルのドラグーンで、どうやって洋上の艦艇を撃つんですか?」


小さく挙手して聞けば、にんまりと自信満々にダンさんは言った。


「上に飛ぶなら、──横にも飛ぶだろう?」


彼が立てた人差し指が、横に向きを変える。ローワンがあんぐり口を開けたのが見えた。なんと強引な作戦だろうか。
ドラグーン横にして撃つつもりだ、この人。

成る程、と小さくため息をつきかけて、それを飲み込んだ。
すると、さっきまで会話すらしたくなさそうだった少尉が、刺々しく突っ張った声を出した。


「あの。なんでこいつだけ私服なんですか」

「おぉ、よくぞ聞いてくれたねボーイ!ナイスな質問だ!」


聞かなきゃよかった、とぐったり肩が落とされる。
余計にダンさんのテンションを上げてしまったようだ。さっきにも増して彼の笑顔が暑苦しく輝いている。


「ガールには今回、監視をしてもらおうと思ってね!」

「監視ぃ?」

「目が飛び抜けて良いと聞いたよ。だから、ここから艦艇を見張ってもらって、どの方向から撃つべきか指示をしてもらおうと思うんだ!」


ガーリーに危ないことはさせられないからねっ!

私のとは少し違う、スカイブルーの瞳を指差しながらきらりと笑う。
歩兵が武器を持たずに参加する任務が、未だ嘗てあっただろうか。思わず、はぁ、と間抜けな返事を洩らしてしまった。


「でも、それって、レーダーでローワンが監視してるから意味ないんじゃ」

「俺はね、何でも機械に頼ろうっていう現代の思考が嫌いなんだ!ちゃんと見るものは見て、直に感じていかないとね!」

「(それとこれとは話が別だよ…)」


ぐっと親指を立ててグッジョブ!と笑うダンさん。
前言撤回。話を聞かないタイプの人じゃない。話が通じないタイプの人だった。


「はい、じゃあ解散!それぞれ指示した位置に就いてーっ」


ぱんぱん、と小気味よく手を叩いて、大きな声を出しながら命令する。
自己紹介を受けて、作戦内容を聞いて、ちょっと質疑応答をしただけの、5分ちょっとの間に、皆が皆これ以上ないほどに疲弊していた。


移動しながら、少尉が声をかけてくる。


「お前、防疫指定海域外にまで出た船なんて見えるの?」

「見えるわけないでしょ、アフリカの原住民じゃあるまいし。そこまで良くないよ」

「だよな」

「まぁ、暗くなったら明かりで最低限は分かるかもしれないけど」

「…視力いくつだよ」

「両目で4.8」

「十分だろっ」

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