「っあぁ…ああああ………ッ!!!!!」


頭の奥に響くような甲高い悲鳴を聞いて、がくがくと揺れる意識をなんとか落ち着かせ瞼を開く。
はっきりとしない記憶、だけどものすごい何か嫌なことをされたような覚えだけはある。その感覚に、悲鳴が重なって更に僕をイラつかせた。
誰だよ、こんなたっかい声で。うるさいったらありゃしないよ、これだから女は品がなくていやなん

だ…って、え?


死神が、大きくのけぞって、その胸元から白銀の光が溢れ出していた。
やけに細長い、無骨な藍と灰が混ざったような奇妙な色をした結晶がずぶずぶと嫌な音を立てて生えてくる。全て抜け切ると、結晶が粉々に剥がれ落ちて、光と同じような白銀の、弧を描いた細長い棒のようなものが姿を現す。
真ん中の、一番曲線になっているところがやや厚みを持っていて、両脇の先端部分はひねるように捩れている。

なんだよ、あれ。


え。何これ。今の甲高い叫び声…、死神が出したわけ?
いつもの、無表情でぼそぼそと単調に言葉を紡ぐあいつからは、想像できないような、悲痛な声を。

僕が、初めて見る非現実的すぎる光景に微動だにできずにいると、いつの間にいたのか後ろからローワンが駆けていって死神を受け止めた。その必死な様子に、ますます状況が飲み込めないでいる僕。
なんだこの置いてきぼり感。不快に思って、立ち上がった。足元にはロープやら布が散らかっていた。なんだよこれ。ますます嫌な気分にさせた。ていうか、ここ何処。僕、ついさっきまで、スワップに重ねてベイルアウトの衝撃まで受けて、ぎりぎり意識保ちながらコフィンの中で歯噛みしてたよね。ああもう、また嫌な気分になること思い出した!
ふわりと浮かび上がったその妙な形の棒は、白銀の二重螺旋の光を纏いながら宙をするりと移動していく。とりあえずそれを追いかけた。柵のふちっぺりまで行って見下ろすと、葬儀社の面々。嗚呼、恙神涯!あの野郎…!言い切れぬ怒りと憎しみと、どろどろとした黒い感情が体中を支配して、唇を噛んだ。
だけど、違った。さっきの棒は、少し背丈の低い少年の手元へと降りていき、その手の中に収まると少し光が弱くなった。僕はかじりつくようにその光景を見つめる。横でローワンが死神を抱きかかえ、呼吸の有無を確認をしている。息はしているらしい、どうやら気を失っただけのようだ、と興味深そうに死神を見下ろす嘘界と話しているのが、耳に勝手に入って来る。


聞き耳をそば立てていると、僅かながら風に乗って聞こえてくる奴らの会話。音を拾うようにして注意深く聞いていると、ピンク色の珍しい髪色をした女がぱたりと膝から崩れ落ちる。恙神涯がそれを抱き上げた。


「……涯…、これって…サーシェさんの、」

「そうだ。死神サーシェ=cあいつのヴォイドだ」

「何これ、棒…?そのわりにはしなっているような、」

「時間がない、集!そいつで、弓を引くように構えろ!」

「えっ…!?こ、こう…!!?」


集、と呼ばれた少年が、死神から出た細長い棒のようなそれを、左手で持ち、右手ですうと中心部から水平に線を引くように肘を折る。…と、うっすらと薄青い燐光が線のように形を成していき、それが少しずつ増幅していって、矢のような形に整っていく。弓を引いている。証拠に、矢の後ろと弓の両端を繋ぐようにして仄明るい白い光が線を引いている。
最初は頼りなかったその青白い矢の光は、蓄積されていくように大きく、太くなっていく。

上空を見上げると、どんよりと重く暗いそこにだんだんと迫り来る赤い光の塊が見て取れた。近づくにつれて輪郭がはっきりとしてくる。あれは、ルーカサイトだ!


「今だ、集!!!!」


恙神涯の合図で、少年はめいいっぱい引き絞ったそれをルーカサイトに向かって解き放った。咆哮のような少年の声が、辺り一面に轟く。


刹那、一筋の蒼が赤を突き抜け、その向こうにまで真っ直ぐ直線を描いた。

光が、吸収されていき、次の瞬間、散り散りになって光の粉となって空を覆いつくした。


「………………きれい、」


眩しいとまではいかない煌めきが、視界一杯に広がって、満天の星空を思わせた。
プラネタリウムにいるみたいだ。こんなに星がいっぱい瞬いている空は、見たことがない。

雪のように、ちらちらとゆっくり降りてくるその光の粉は、蒼や銀、オレンジの色を纏っていて、

そのまま暗闇に溶けるように消えていった。



すると、じわりと滲み出してくるように空いっぱいに光のカーテンが降りる。


「オーロラだ…」


力の抜けたような、ローワンの声だった。

言葉もなくすようなその美しさに、僕は暫くの間瞬きすることも忘れて、夢中になって空を見上げた。



束の間の静寂が、世界を支配する。

そのとき、誰もが音を発することをやめ、ただ静かに空を見上げていた。



少尉のなかから出てきたから…少尉のなかには、あんな綺麗なものが入ってるんだね…



それを言うなら、お前もだよ。

こんな、こんな綺麗なものが、お前から出てきたんだ。

いつもの暗い暗い、海底のような蒼い瞳の向こうに、こんなものが眠っていたんだ。


僕、お前のことはいまいち分からないけど、

お前の中の、こんなに綺麗な何かは、


好きだと思うんだ。




から生まれた星
(初めて僕は、お前の何かを知れたような気がした)



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