「アルゴ、あのエンドレイヴは私とアヤセに任せてほしい」


私がそう言うと、アルゴは若干不安そうな表情を浮かべはしたものの、わかったと頷いてくれた。


「あんなデッケェ機体に、生身のお前で大丈夫か?何か手はあるんだろうな」

「うん。ただ、ひとつ言っておかなきゃならない。
私は、ここに大切なひとを助けにきた。だから、ここを出たら別行動だよ」

「ああ、わかってる」

「ある程度足止めが出来たら、私も春夏さんと同じように上に行く。そうしたら、直接セメタリーに行ってエンドレイヴの接続を切ってくるよ」

「成る程な…わかった、それでいく。歩兵は任せろ」

「うん」


短くそう作戦会議をすると、私は飛び出していって銃を構えた。中の弾倉はさっきのものとは違うのが装填されてる。

こんなに大型の機体を開発していたとは思わなかったけど、原理は通常のエンドレイヴと同じだろう。
ダリルくんの操縦やローワンの整備なんかを間近で見てきた身だ、ほんの少しだけどそっちもかじってる。多分、これだけ大きい機体だと、通常の接続方法ではびくともしないはず。
そのためには、より深い感覚共有が必要になってくる。つまりそれは、返ってくる負荷の大きさも通常の比でないことを意味する。

エンドレイヴは兵が直接戦死しないよう、替えのきく肉体をと開発された戦車だ。だからといって死人が全く出ないわけではない。
通常のエンドレイヴだって、ベイルアウトが遅れれば精神負荷が大きすぎてショック死する危険がある。これだけ巨大な機体を操作するほど根深く精神と接続していたら、その可能性だって決して低くはないだろう。


生け捕り。それに近いことが出来たら、と私は考えた。ちょうどそれを可能にする武器を、アヤセにもらった。使わない手はない。



「お前のそれも、ヴォイドってインチキかぁぁあああ!!!」



なんてことはない。物理的攻撃が弾かれるなら、私は生身の小ささを利用して盾の内側に回り込んだだけだ。
普段彼は興奮していても、ここまで気が動転したりなんてしない。やけに声を張るし、銃の狙いもうまく定まってない。おかしい。

対エンドレイヴ用兵器の銃弾を、様子を伺いながら機体の機関部に少しずつ撃ち込んでいく。
電気を流す特殊な構造をしているこれは、所謂スタンガンを小さく細切れにしたようなものだ。ひとつの線になるように撃ち並べれば、そこに電流が流れる。痺れを起こして動きを止めた瞬間の隙を作るための武器。


あと一ヶ所、そんなときだった。


「サーシェ──────ッ!!!!!!!」


びく、と。
腕が震えて、体が動かなくなる。
戦場では、一瞬の気の緩みが命を奪う。そんなことわかりきってたし、それを利用していろんなひとたちを殺してきた、のに。


いま思い出すなんて、反則だ。


「っぐぁ!!」


体を捻り切れず、避け損ねたそこに鋼鉄の拳が襲い掛かる。
最新型のタクティカルスーツを着ていたところで、効果はたかが知れてる。痛いときは痛い。
そのまま壁まで弾かれて、壁を大きくへこませる勢いで衝突した。途中まで体を捻っていたのが良かったのか、拳と壁に挟まれてぺちゃんこになるのだけは免れた。
壁から剥がれ落ちて、固い地面に崩れ落ちる。痛い。純粋に痛い。


「う…、ダリルくんのばか…」


悪態をついたところで、届かないだろうことはわかってる。
衝撃で、せっかくツグミにもらったのにヘッドセットが壊れてしまった。破片で頬と目尻が切れたけど、目に入ったわけではない。大丈夫。

ぐ、と無理矢理軋む体に鞭打って起き上がると、足が悲鳴を上げた。多分折れたのかもしれない。足だけじゃない、肋骨もだ。いろんなところが痛んだ。
気が遠くなりそうな痛みに歯を食い縛って耐える。所詮私は人間だ。動かなくなったらそれまでだし、エンドレイヴみたいに替えがきくわけでもない。

だから、動け。動かなきゃ、まだやっと近くに来たばっかりなんだ。
ダリルくんとローワンのところに行かなくちゃ。私は二人を助けるためにここまで来たんだから。
怒られたって殴られたって、最悪嫌われたって構わない。大好きで大切な人の命は守りたい、そう思うのは不自然だろうか。


「(……って、いまその大切なひとに、殺されかけたんだった…)」


なんだこれ。いくらちゃんと説明しないで組織を出たからって、パンチはないでしょ。しかも鉄のパンチ。冗談抜きで痛いよ。
いや、生身のパンチならしょうがないかなって思った。思った、けど、ああだめだ、痛くて頭回らなくなってきた。

本当はなるべく痛くしないで助けたかったけど。
ちょっと意地悪してもいいよね。


折れた足じゃ戦力の低下は否めない。立つのがやっとだ。走ったり跳んだりは出来なさそう。


「死神、なめんなっ」


拳銃を捨て、背負っていたアサルトライフルを二丁構えた。
腰を落として重心を下げ安定させると、思いっきりトリガーを引く。
ばらららら、と断続的に発砲音が鳴り響いて、機体の装甲が細かくへこんでいく。



『!、足がっ』

「お返し!」



機体の足の機関部に弾丸を詰め、機動力を大幅に下げると、そのまま対エンドレイヴ用兵器の銃弾を撃ち込んだ箇所を狙い撃った。


『…っぐ!なんだよ、これ!』

『余所見してる暇あんの!?』

『……っのくそがああああああ!!!』


腕から肩にかけて電流が流れると、ダリルくんが呻き声を上げた。機体のサイズがサイズだから、効果の程が不安ではあったけど…それなりに効いたらしい。
アヤセがすかさず弾を撃ち込んだ。だけど、見えない防壁に阻まれて跳ね返る。
ダリルくんが私に向けて今一度拳を打ち出した。やば、い。この足じゃ、間に合わない。

すると、滑り込んできたシュタイナーに抱き上げられた。


『何無茶やってんのよ!死ぬわよ!?』

「ご、ごめん」

『おとなしくゴースト退治しててよねっ』


アヤセに怒られた。
そのまま旋回して、装甲車付近に降ろされると、アルゴにも頭をはたかれた。


「ばか野郎!何してんだ」

「え、あ、うん。反省する」

「おら!立てなくても一応撃てんだろうが!!寝てんなよ!!」


新しく銃器を手渡された。前髪をかきあげて、両目で残りの戦力を確認する。
…歩兵はほとんど片付いてる。あとは、ゴースト部隊のエンドレイヴくらいだろうか。アルゴの手捌きもなかなかだということだ。


「…にしても、ツグミのやつ遅いな…」

「アルゴ。此処は任せましたよ」

「シブンギ?」

「どこへ!?」

「私にもつけなければならない決着があるようです」


一緒に前線で戦っていた倉知さんが叫ぶと、装甲車から降りてきたシブンギはそう言って姿を消した。
倉知さんは忌々しげに舌打ちをすると、また銃を構える。
その時だった。


『っ、何これ!?急に操縦が──』


アヤセの悲鳴のような叫び。シュタイナーを見やると、今まで宙にあった機体が、糸が切れたように動かなくなり落下した。放り出され崩れ落ちた機体が、床に膝をつく。
そして気付いた。肌の内側を這いずり回るような不快な感触。いやに響くメロディーライン。これは歌だ。ロストフォートの時にも聞いた、あれは電子音声でとても歌とは呼べないけれど…歌が、奇妙な現象を引き起こしている。


一瞬同じように動きを止めていた巨大なエンドレイヴも、すぐに起動し顔にあたる部分を上げた。


『ハハハハハ!!!通常兵装なんかで来るからだよ!!
ほらほら、早く何とかしないとしないと潰しちゃうよ!!』


銃がこちらを向いた。
私はもう一度、軋む体に鞭打って立ち上がる。


「……っ、させない!」

『死に損ないの裏切り者が何さ!!!おとなしく寝とけよ!!』

「やなこった!」


私の言葉に呼応するように、隣でアルゴが巨大なアサルトライフルを構えた。


「させっかよ!綾瀬!!有線接続だ!!」


エンドレイヴ用のそれを発砲するアルゴ。こちらに近付いていたゴーストは不意をつかれたように狙い撃たれて吹き飛んだ。
私はカメラアイを狙ってライフルを構える。だけど何回やっても、やっぱりハニカム構造の透明な防壁に阻まれてしまう。

そろそろだろうか。


「アルゴ!私、」

「行くなら行け!その前に足くらい固定しとけよ!」

「うんっ」


アヤセが飛び出したのとは別の装甲車の中に、足を引きずりながら入って応急処置だけしてもらう。折れたのが繋がったわけではないけど、やっぱり安定する。
接続を切って、此処を出るだけだ。それだけだ。


生きたい、なんて当たり前で傲慢なわがまま。
もう一度、もう一度だけ、聞いてください。

一緒にいたいと誰よりも願ったのは、私だから。







ダリルくんと本気の喧嘩をしたのなんて、久しぶりだ。
まさか骨まで折られるとは思わなかったけど。
思わずほくそ笑んでしまう。

ぼろぼろの体を引きずるようにしながら、私は走り出した。



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