もしもーし?


こちらベル王子、




そっちに聞こえてる?































































































名前がいなくなったあの日からもう10年経つ。

そして俺は、今日もここに来て、生きていることをあいつに知らせてる。










ヴァリアーの本部アジト、俺が普段から寝泊りしてる屋敷。
その敷地ん中の、端っこの。
日当たりがいい、誰も来ないような外れのほうに、それはある。





王子の部屋は階の端だから、窓からギリギリ見える。そんなとこ。



任務の帰りにはボスに報告したあと必ず、何をするよりも先に、ここに来る。
(あ、返り血で汚れてたら着替えたりするけどね)






「おーい、名前ー?」



返事が返ってくるはずも、ないんだけど。




十字架に輪が重なったようなシルエットの墓石が、きらりと夕陽に照らされて輝く。
昨日作ってかけてやった花冠が、少し萎れて引っかかっていた。













そう、ここは名前の墓地。














あの日あの後、俺は名前の身体を自分の手で埋葬した。
他の奴にいじられたくなかったし、あいつの死に水をとってやんのは王子だけって決めてた。
火葬は、やめた。
あいつがあいつでない骨の姿で埋まっていくのは嫌だったか、ら。




ありったけの金つぎ込んで、綺麗な墓を立ててやった。
派手なのがあんまり好きじゃないって言ってたあいつの好みのとおり、シンプルかつ、綺麗なものを。

周りは一面の花畑。業者を呼んだら一日で半径1キロの範囲に種植えてくれた。
王子はあんまり園芸とかちまいのつまんねーしめんどいしやんなかったけど、この花たちは、俺が世話した。
あいつにせめてもの償い、ってね。何より、名前が喜ぶことは俺がしてあげたいわけ。






最初の一年二年かそこらは他の幹部の奴らとかボスもここに来てたけど、もう来ない。
王子だけが許された、あいつといられるこの世界でたった一つの場所。


持ってきた花束を、名前の名が刻まれた石板に添えるようにして置く。
それから俺は、墓のすぐ横に腰を下ろした。いくらか花が潰れた音がした。





橙から紫、そして紺色へ。
少しずつ、けれど確かに色を変えていく空を見上げる。

ごろりと横になって、両手を頭の後ろで組んで、仰向けでまた空を見上げた。








「名前ー、」



呼んだだけで来てくれるのなら、いくらだって呼ぶのに。





「俺もう26だって。いつ結婚すればいいわけ?」


俺が夫になんのは、名前だけって決めてた。名前を嫁に貰うのも、俺だけって決めてた。







「いつものクソ後輩がさー、センパイもうすぐ三十路ですねー≠ニか言ってくんの。ほんと腹立つ」






愚痴を零すのも、これで何度目か。








「なぁ、名前?」











ふわり、風が吹き抜けた。
ざああと揺れて花と花が擦れ合う音がした。
それが静かになってくる頃には、もう空は深い闇色をしていた。



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bkm
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