嘘だろ?





















































今日は空も綺麗に晴れて雲ひとつ無い青色。

心地よい風が吹き抜ける、いかにも穏やかって感じの気温。


ようやく任務が終わって、さっさと帰って血糊がべっとり付いた身体を洗いたいと思っていた。
数に物言って突っ込んでくる奴らの間抜けさったらねぇよな。あー、早く名前に会いてー。
正面から来た奴真っ二つにしたときは笑っちゃった。名前に話したい。


アジトに戻ってシャワー浴びてほかほかの身体にボーダー柄の薄い服を着て、幸い汚れていなかった下の隊服を履いて。
タオルを首のとこにかけて屋敷ん中を歩いてたら、癖で名前の部屋の前まで来ていた。
慣れってこえー。無意識でここ来ちゃうとか王子もう末期かもね。


まだ微妙に濡れたままの髪をそのままに一瞬部屋に入るかどうか迷う。
王子早く名前に会いたいんだけど。でもな、一回談話室覗いた方がいいか?

そういや俺が任務に出る前にあいつも任務でアジトに居なかったんだっけ。
いい加減帰ってるよな。俺が任務だった日数とあいつが任務出てからの日数足したらもう軽く半月じゃん。

任務中も名前が頭ん中から離れなくていっつもちょーし狂うの。
早く会いたいとか、今なにしてんのかとか、あーもー野郎ばっかでうっとーしーとか。

あいつも中々に可愛いこと言ってくれてさ、任務で出てる時は連絡しない約束してんの。
なんでかって、名前が「早くベルに会いたくて任務適当になっちゃうから駄目!」って顔赤くして言ったんだぜ。
ボスにかっ消されるの怖いから真面目に任務するんだってさ。かわいーの。
王子のこと好き?って聞いたらうん、って頷く奴。それが俺の大好きな名前。



だから、今回もイイコの王子は、連絡しないでやってたんだぜ?半月も。







髪を伝った水気が集まってひとつの雫になった。
ドアノブを握る手の上に落ちた。冷たかった。
あいつ、王子の顔見たらまず最初になんて言う?

おかえり?

それともベル、って名前呼んでくれる?

まさか、風邪ひくでしょ、なんて言ってタオルひったくったりしないよな?




その候補のどれもが愛しくて、やっぱり俺は名前依存症確定だと医師でもないのに病状を診断してみる。
あいつの笑った顔が見たい。暗殺部隊なんて重荷まるで背負っていないような、あの笑顔。
ベルすき、っていつも笑いながら言ってくれるから、王子も名前すき、って笑いながら言う。



さて、やっとのご対面。
ゆっくりとノブを捻って扉を開く。
会いたい、会いたい、やっとお前の顔見れるんだ。






なのに、





































おかえりも、


俺の名を呼ぶ声も、


ましてや俺の世話焼く声すらも、



何もなくて。








なんだ、いねぇのかよ。
王子期待しちゃったじゃん。いつもはちゃんと部屋で待っててくれるのに。
恐怖のボスにでも呼び出されたのか。
でもボスは俺が帰ってくるときに限ってそんなことしない。
なんだかんだ言ってボスはやさしーから、ちゃんと名前に俺の出迎えさせてくれる。



じゃあ、なんで?















名前を探してふらりふらり、アジトの中を彷徨っていると、遠くから足音。
名前かと思ったけどちょっと違う。足音まで聞き分けられるなんて、王子末期通り越してすごくない?

振り返るとスクアーロ隊長だった。珍しく俺が「なんだ先輩か」って生意気なこと言っても何も言わない。
静かに黙ったまま、どんどん俺に近付いてきて、うっわこの人静かだと気味悪りぃとか思ってたら、
険しい表情で王子の首根っこ掴んだ。あん?何してんだこのカス鮫先輩。


「来い」

「は?」


そのまま強引に引っ張る。とりあえず向きを変えて引きずられないように必死で歩いてっと、談話室の前で先輩が止まった。
何、名前やっぱし談話室にいたわけ?




「入れ」





どういうわけか先輩は入らないらしい。
頭の上にティアラとはてなを乗せたままゆっくり重い扉を押し開けた。






そこにいたのは、


























































「昨日息を引き取った」


















部屋の真ん中。俺がいつも名前と並んで座ってた横長の広めのソファー。


名前は、そこに横になって、目を閉じていた。





あたりには幹部の奴らどころかボスすらいない。
ただ、広い談話室で、ソファーの上に名前が眠っているだけだった。



「一週間前、深手を負って帰ってきたんだぁ」

一週間前。王子が任務に出て5日後。





「意地でもお前に連絡はしねぇって笑ってた」



ベル、心配して飛んで帰ってきちゃうもの。
そんなベルをもし誰かが襲ってきちゃったらどうする?


優しいベルは、あたしのことになると物凄くベルじゃなくなるの。

でもそんなベルが、あたし大好きなの。










ふらふらとソファーに歩み寄る。
お前、寝顔相変わらずきれー。でもさ、何でそんな、

血の気無い顔、してんの?








ゆるく弧を描いたままの唇。
嗚呼、なんなのこいつ。寝ながら笑ってるじゃん。



ちゃんと、俺のこと、






笑顔で迎えてくれた。










「傷が深すぎたんだぁ…ちっとも好くならなくてなぁ………」

「………、」

「早くお前が帰ってくればいいのにって、ニコニコしてたぜぇ」

「……………、」



そうだよ、俺はお前のことになると王子じゃなくなるよ。
名前が好きな、純粋な男に成り下がるんだ。
そんな自分も嫌いじゃなかったんだ。

名前が好きだって言ってくれる俺が、


たまらなく大切だったんだ。





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