君が生まれてきたことにたくさんのありがとうを

《僕の声が、君に届くまで》夢主誕生日記念短編
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「羽無お誕生日おめでとうーっ!」

「家入れなさいよ、パーティーするわよパーティー」

【わぁ…っありがとーっ!あ、ちょっと待って、今片付けて】

「邪魔するわよー」

【花ーッ!!話を聞いてー!!】


連休の真ん中の土曜日、突然の来訪者に頭上にはてなを浮かべながら扉を開くと、あたしの親友二人が並んで立っていた。
玄関口に置いてあるメモ用紙で筆談するも花には敵わず。いくら日頃からうちに来てるからって…もう。でも今日という日を選んで来てくれたことが嬉しくてつい頬が緩んでしまう。


【京子も上がって】

「片付けいいの?」

【花入っちゃったからもういいの】

「ふふ、それもそうだね。ナミモリーヌでケーキ買ったの!早く食べよ」

【ありがとうっすぐお茶淹れるね!】


京子をリビングに招く。花はさっさと椅子に座って寛いでいた。
失礼ってほどじゃないけど彼女のマイペースさにちょっと苦笑。何回も来てるのに部屋を見回す花に【何も変わってないよ】と微笑んだ。



「あんた相変わらず地味な服装ね〜」

【部屋着だもん】

「この間遊び行ったときもジーンズにパーカーだったでしょ」

【そうだっけ?】

「じゃあさ、今度羽無の洋服選びに行こうよ!」

「名案ね京子。ダサい羽無を卒業させるわよ」

【ダサいのっ!?】


いつも通りの談笑をしながら花にはローズヒップ、京子にはカモミールハーブティー、あたしにはいつも通りココアを淹れた。
京子が花と選んできたというラ・ナミモリーヌのケーキボックスを開けると、ミルフィーユ・ティラミス・ミルクレープ・モンブラン・季節の果実を盛り合わせたタルト・チョコレートケーキが入っていた。
チョイスが如何にも二人らしい。一人2つずつって計算かな?こんなにたくさん、高かっただろうに。


【お金払うよ…?】

「何言ってるの!それじゃプレゼントにならないでしょっ」

「そうそう。それにあんた日頃から風紀の仕事でほとんど休日も休まずなんだから、今日くらいゆっくりあたしらに甘えなさいよ」

【…あれ?】


ふと浮かんだ疑問。確かに、そういえばこの連休珍しくお仕事入ってない…な。雲雀サンからも何も連絡ないし…あれ?
ここ2週間くらい本当に休みなしと言っても過言ではないくらい忙しかったのに。なんでまた急に…?


【あたしなんか仕事忘れてないかな!?大丈夫かな!?】

「家にいるんだからお休みでしょう?」

「完璧仕事病ね」

【でもだって!忘れてほっぽってる仕事なんかあった日にはあたし、あたし…!】


「休みだよ、今日は何があっても確実に。」



花のはっきりとした口調に、メモ用紙に滑らせていたボールペンの動きを止める。
え?と言わんばかりの表情で花を見やる。「うん、今日だけは絶対にお休みだよ」と隣で京子も微笑う。
あたしだけ、状況を飲み込めずにいるのは気のせいだろうか。


「あのね、羽無。私と花で、先週お願いに行ったんだ」

【……誰?】

「雲雀恭弥に決まってんでしょ」


……………


………はぁぁああああ!?



「羽無が来週の土曜日誕生日で、お祝いしてあげたいからその日だけでも羽無をお休みさせてくださいって」

「最初怖かったんだけどさ、あんたの誕生日だって言った途端なんて言うの?空気が緩くなったのよね」

「ねー、雲雀さん羽無の誕生日知らなかったみたい。ちょっとビックリした顔してそのあといいよ、わかったってすぐ頷いてくれたの」



…………な ん で す と ?



「はい、雲雀の話はこれでおしまい。ケーキ食べるわよケーキ」

「うん!羽無のお祝いだから、羽無が最初に好きなケーキ選んでね」

【……あ、うん。じゃあね、チョコレートケーキと…モンブランがいいな】

「ふふ、羽無はチョコ選ぶと思ったんだー」

「じゃああたしはティラミスとミルクレープ貰うわ」

「うん、お店で選んだ通りだね…ふふふっ」


どうやら二人ともあたしが何を選ぶのか見当つけて選んできたらしい。そんなに分かりやすいのかな?それとも一緒にケーキショップ行くことが多いから…経験?

それぞれ違うドリンクを淹れたカップを手にすると、二人がささやかながらハッピーバースデーを歌ってくれた。
あたしは二人の誕生日に歌ってあげられないけど、あたしの分も温もりを込めて歌ってくれる。嬉しくてつい視界がうるうるしてしまった。


「「ハッピーバースデー、羽無!」」


チン、とカップを合わせて乾杯。ケーキを食べながらまたリビングに二人の柔らかい楽しそうな声が響いた。



***



(まさか雲雀サンのことで花に質問攻めされるとは…)


昨日一日で真っ赤になったり真っ青になったりと大変だった。筆談だと否定の威力が小さいらしく「またまた〜そんなこと言って実はそうなんじゃないの〜?」と悪戯に微笑まれたことが何度あったか。
京子も京子で隣で微笑ってるだけで全然庇ってくれないし!というか楽しんでる節あったし!
……久しぶりにたくさん話せて楽しかったけどね。

そのせいでなんだか雲雀サンに顔を合わせるのが恥ずかしい。
でも今日に限って雲雀サンからお仕事の召集かけられちゃったし、学校に行かないわけにもいかない。

というわけで、あたしは今応接室の扉の前で立ち尽くしています。



(忘れ物してないよね…)



扉に手をかける前に頭をフル回転させる。平常心平常心…
開けたら最初になんて言う?「お休みありがとうございました」?いやいや、わざわざ自分から言うなんて昨日誕生日でした!って自己主張してるみたいだし…ここはいつも通り…いつも通り…
あたしいつもなんて言って最初応接室入るんだっけぇぇえええ!!



「何してるの?」

「っっ!!!!??」



不意に後ろからかかった声。部屋に入ってから聞くものと思っていたから吃驚しすぎておもむろに跳び跳ねてしまった。
あたしの方が応接室に着いたのが早かったみたい。学ランを肩に羽織った雲雀サンがあたしのすぐ後ろで眉根を寄せて怪訝そうな表情をしていた。

スケッチブックを取り出すということに頭が回らず口をぱくぱくさせていると、「入らないなら先に入るけど」とあたしの横をすり抜けるようにして扉を開き中へ行ってしまった。
慌てて後をついて応接室内に踏み込む。一日二日休んだだけでもう彼の執務机には分厚いファイルとプリントが幾重にも重なっていた。


鞄をソファーに置いて、給湯室へ入ろうと身体の向きを変える。
と、


「じゃあこれ、会計処理しといて」

「へ、」


ぽす、とファイルと印刷用紙を手渡される。
思わず声を出してしまい、とすっとチョップを頂きました。にしてもいつもよりソフトタッチ。

普段は真っ直ぐ執務机に向かう彼に、自分の作業よりも先にコーヒーやらお茶やらを出してあげるのがあたしの最初の仕事なのだけど…、あれ?


戸惑ったのが顔に出ていたのだろう、見上げた彼の黒曜石のような瞳が「いいからやれさっさとやれ」と言っていた。(もとい睨まれた)


よく分からないままソファーに置いた鞄の隣に腰掛けて、資料をローテーブルに置くと、鞄を漁って筆箱を取り出す。
作業を始めて少し経ってから、コトリ、無機質な音が視界の隅で鳴る。
視線を向けると、あたし専用のひよこマグカップがこちらを見つめている。中に入っているのは、


あたしの世界一大好きなココア。



いつの間にかココアを追い抜くほど大好きになっていた雲雀サンが淹れてくれた、世界一美味しいココア。



マグカップを置いたその手の先を見上げようとして、それがもう遅いことに気付く。
視線の先に姿はなく、気配は背後のソファーの後ろを通っている。







「……………っっ、」

「それ、終わったら次、こっちの書類整理ね」



真っ赤になった顔で、彼を一瞬も見ることなくこくこく頷いた。



通りすぎ様に呟かれた言葉。
本当に、本当に小さかったけれど。

二人きりの室内で、その言葉が誰に向けられたかなんて、考えなくとも分かること。



人一倍耳が良かったことを、本当に嬉しく思った。






Happy birthday
dear Minami Hana!!

(………おめでと。)



いつもはあたしがせがんでも気まぐれにしか淹れてくれないのに。
自主的に淹れてくれたこれは、一日遅れのプレゼントってことでいいですよね?






fin.

当サイトの僕届夢主羽無ちゃんのお誕生日をお祝いした短編です。
この年はお友達の管理人さんにも絵や小説を頂いたりして、本当に幸せでした。

頂いた小説はこちらから読むことができます→その一言が written by 雪那


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