***



「それでね、スクアーロがキレてベルを追いかけたんだけど、曲がり角でバッタリボスと会っちゃって!そのままカスが!!うるせぇ!!≠チてぶっ飛ばされて。そしたらベルが…」

「…………」



只今愛しの(あ、やっぱり駄目だ自分が気持ち悪い…)フラン氏と相合い傘でヴァリアーの屋敷まで帰宅中。
なんだかだんまりになっちゃって、その空気に耐えられなくてあたしがフランがいなかった一週間にあったことなんかをひたすらベラベラ喋ってる状態。何が虚しいって、相槌どころか無言なんだもん。目線も進む先にしか向いてないし、軽くあたしの存在を無視していらっしゃる。


「…ねぇ、聞いてる?」

「興味ないですー、あと名前の話し方じゃちっとも面白さが伝わってきません。リアクションしづらいですー」

「悪かったわね。あんたもちったぁオブラートに包むってことを覚えてくれない?」

「それは出来ない相談ですー」


それからは無言。終始無言。つまらないのなんの。
雨が降って、地面や傘を叩く音しか聞こえない。歩くたびに水がぴちゃぴちゃ跳ねて、新調したばかりのブーツに泥汚れになって張り付く。


フランが傘を持ってくれてるから、手も繋げないし。なんだか二人の間を流れる空気までが重苦しくよそよそしいものになってきて、隣を歩くのがつらくなってきた。
あたしが立ち止まると、フランは急なあたしの行動に首を傾げながらも止まってくれた。


「どうしたんですー?…あ、食べ過ぎて腹痛ですかー?」

「食べ過ぎたのはフランだと思う。…やっぱりあたしゆっくり帰るよ、雨宿りしながら。傘使っていいから、先帰ってなよ」


多分、普段が喧嘩ばかりのあんな状態だから、今日みたいに急に恋人同士っぽいことして疲れちゃったんだ。
不器用ながらに優しいフランが嫌なわけじゃない、寧ろ嬉しかった。だけど、帰ってしまったらそれも今日限りでおしまいになってしまう気がして…怖い。


不安な感情が表情に出てしまったのかもしれない。フランは不思議そうな顔をしてあたしを覗き込んできた。


「何言ってんですかー?寒いですし帰りますよー?」

「うん、だからフラン一人で帰って」

「…なんでですかー」


剣呑に光るエメラルドグリーン。あ、怒って…る?


うまく返答できなくて、暫くそのまま見つめていたら、唇に柔らかい感触。ちゅ、なんて可愛らしい音も、雨音に混ざって聞こえた気がした。



────………キス、された。

付き合ってから初めて。


顔がじわじわと熱を帯びてくるのを感じる。恥ずかしくて、俯いた。


「ミーとのデート、嫌でしたかー?」

「…う、ううん、そんなことないよっ!」

「じゃあ、どうして一人で帰れなんて…言うんですかー?」


声が少し弱々しい。ちらり、そちらを見れば、悲しそうな寂しそうな、見てるこっちが切なくなる表情を浮かべていて。
二人してざあざあ降る雨の中、こぢんまりと棒立ち状態。隣の彼があまりにも痛々しい表情で俯くから、慌てて「ち、違うよ!フランと一緒が嫌とか、そんなじゃないよっ!!」と声を張り上げる。雨音に掻き消されないように。


「そ…その、楽しかったよ…?い…いつも、喧嘩ばっかりだし、フラン…優しくないし…。その、…嬉しかった…」



いつも、妬くどころかあたしにばかり意地悪しときながら他の女の子には優しくしてて、あたしなんてホントは遊びなだけで相手にされてないんじゃないかって、いつも…いつも、不安だった。
その度にフランに当たって、ヒステリックに怒って、一人部屋で枕を濡らして。馬鹿みたいだった、あたしばっかり振り回されて悔しかった。
愛されてる自信なんてなかった。恋人だと胸を張って言えないことが寂しくて、つらかった。


だけど、今日は今までが嘘みたいにフランは優しくて、一緒にカフェ行って、ジュエルアクセサリーも買ってもらえて、デートと言える時間は短かったけれど、本当に楽しくて、幸せで。

だから逆に怖かった、急にこんな風にされたから、最後に良い思いさせてもらっただけかもしれない、帰ったら恋人なんて関係なかったことになるのかもしれない。好きだと告白したのはあたしから、フランは「付き合って」と言ったあたしに「いいですよー」と返した。舞い上がってはいたけれど、でもそれってフランがあたしを好きで付き合ってくれている証拠とは言えなくて。


言葉が欲しいなんて我が儘言わない、だけど態度があんまりにも恋人に向けるそれではないから、フランに好かれてる自信どころかあたしがフランを好いてる自信もなくなりそうだった、それが本当に怖かった。
このまま終わりになってしまうくらいなら、時間なんて止まってしまえばいいのに。

嗚呼悔しい、泣きそうだ。フランの前でだけは泣きたくなかった、泣くくらいなら死んだ方がマシだ。



「ホント…ムカつくんですよー」

「へ…?」

「ミーがどうして興味もない平隊員の女なんかに優しくしたのかわかってますー?」

「…え、」

「堕王子とロン毛隊長とばっか仲良さげにしてるしよー、ミーの立場考えろってんですよー」


突然の告白。
あたしは泣きそうに潤んだ目を拭うのも忘れて、フランの無表情ながらも怒りを感じ取れる横顔をじっと見た。


「デートの帰りにまで他の男の話されるとか何の刑罰ですかー、いい加減キレますよー」

「わっ、ごごごめん!そんなつもりじゃ、」


ごめん、そんなつもりあったわ、少し。

少しでも君の意識をあたしに向けて欲しくて、愛のない独占欲でもいいの、あたしのことを考えて欲しかった。
馬鹿みたい、あたし。だってフランはこんなにも、



「前髪、切りましたー?」

「……っ、今更、気付く?バカ…」

「朝から気付いてましたよー。

…似合ってます。そのスカートも、本当に可愛いですー」



不意討ちだ。そんな、優しく微笑うなんて。
傘を持っている彼に、思わず抱き付いた。傘もあたしも、丸ごと抱き返してくれた。





好きですよ、名前


もういっそこのまま、溶けてしまいたい。




fin.


雅ゆかさんに贈る相互記念作品!


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