朝から頭の中は昨日のフランでいっぱいで、起きたてなのに顔がにやけそうで頬をつねる。

とりあえずベッドから降りて朝支度を済ませよう。前髪も伸びてきたし…この際だから切っちゃえ。





「(どーうしよーう)」


早起きしてシャワーを済ませて、フランが来る前に着替えておかないと。
…って思って今鏡の前で服を合わせてるんですけどね。何着ようかな…普段隊服しか着ないからこういうの疎いんだよね。
うーん…あんまり張り切って着飾って笑われるのもやだし、ジーンズにパーカーでいいかなぁ。


数少ない私服を手にうんうん頭を悩ませていると、ガチャリとノックもせずに開かれるドアの音。
ぎゃー、ちょっ今部屋の中服散らかりまくりで汚いのに!


「まだ寝てんですかー…って、何してるんですー?」

「フッフラン!女の子の部屋に入るときくらいノックしなさいよ!」

「服ですかー?…まさかとは思いますけどー、その手に持ったジーンズとパーカーとかいうダサい組み合わせじゃないですよねー?」

ギクッ…や、やだなーそんなわけないじゃーん」

「ギクッて普通口で言わねーだろ」


本日もフラン氏の毒舌は絶好調です。

フランは部屋へズカズカと入ってくると、散らかってる私服を一通り見渡してから一番遠くに放ってあったピンクのチェックのふわふわスカートを持ってきた。
それから白いブラウスも拾ってきて、あたしにぐいと押し付ける。


「雰囲気考えてくださいよねー」

「え!これ着るの!?」

「ジーンズにパーカーで隣歩かれるよかマシですー」


さっさと着替えてくださーい、そう言って手をひらひら振りながら部屋を出ていったフラン氏。
パジャマ姿のあたしは、鏡に向き直ってフランが選んでくれた服を合わせてみる。このスカート、ルッスが去年の誕生日にくれたんだけど、機会もないし似合うはずもないと思ってずっと着ないでいたやつなんだよね。

そういえば、今日はカエルの被り物してなかったなぁ。服も、Tシャツに白いパーカーでタイトジーンズ、隊服にカエルの被り物な普段よりずっと大人っぽくてカッコ良かったや。
にまにましていたら扉の向こうから催促の声がして、慌てて着替え始めた。




「……なかなかマシなほうなんじゃないですかー?」

「素直に誉めてよっ」

「あとはー…」


ポニーテールに纏めた髪。するとフランはあたしの後ろに回り込んでその髪を何やらいじくりだした。
なんだなんだとビックリしながらされたままでいると、「こんなもんですかねー」と無感情な声とは反対に少し綻んでいる表情。
鏡を見てみたら、小花柄の可愛らしいシュシュがつけられていた。アクセントに大きめの花もあしらわれている。


「さ、行きますよー」

「わっ、ちょ待ってよ!!」


満足気に部屋を出ていく彼。携帯やら財布やらを手当たり次第に小さめのバッグに詰めて、足早に追いかけた。



***


「どこ行くの?」

「テキトーですー」

「ふーん…あっ、じゃああたしあそこのカフェ行きたい!」

「こないだ言ってたやつですかー?ケーキが美味しいっていう…」

「そう!フラン甘いの嫌いじゃなかったでしょ?」

「まぁ…」

「じゃあ行こ!朝食べてないからお腹すいたし」

「朝からケーキってどうなんですかー」

「だまらっしゃい」



半ば無理にフランを引き摺って目的のカフェへ向かう。
相変わらず憎まれ口しか言わないフランだけど、今は照れ隠ししてるようにしか感じられなくていつもみたいにイライラしない。

空も綺麗な快晴!絶好のデート日和じゃないの!!


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「あたしミルクティーとガトーショコラで!」

「ミーは…じゃーレモネードとチョコレートパフェとフルーツタルトとショコラデニッシュでー」

「めちゃくちゃガッツリ頼んでるじゃん」

「会計は任せますー」

「誰が払うか!!」



ちゃっかりしてんじゃねーよ!!ここは普通彼氏が奢るくらいの器量でこう…、あーあーわかってましたよフランに普通を求めた時点であたしが間違ってました!にしても彼女に奢らすってどうなの!?


結局言いなりになって奢ってる自分が憎い…。
(だって甘いものに囲まれて幸せそうに(無表情だけど)食べてるフラン見られたからそれでいいやってなっちゃったんだもん)



「次はどこ行きますかー?」

「うーん、あ、じゃあそこのアクセサリーショップ寄りたい!」


カフェを出てまた二人で街を歩く。フランは隣を歩いてるだけで寂しかったので、あたしから手を繋いでみた。恥ずかしいから恋人繋ぎは出来ないけど…振り払われないだけマシかなぁ。

デートにきた記念に何か欲しいな、そんな出来心から気乗りしないフランを引っ張って目についたアクセサリーショップへ。


「このリングどうかな?」

「リングは戦闘の時に邪魔でしょー。こっちのがいいんじゃないですかー?」


ハートのチャームにピンクダイヤがあしらわれたネックレス。派手すぎないシンプルなデザインのそれはフランの好みかな?でもあたしも気に入ったからこれでいいかも。
じゃあフランにはこれかな、なんて言って選んだのは月の形のチャームにエメラルドストーンがあしらわれたネックレス。
フランを振り向けば、良いでも悪いでもなく、店員さんに「これとこれくださーい」って。勿論指差す先には、フランが選んだネックレスとあたしが選んだネックレス。


フランが会計をしに行ってしまった。ふと値段を見れば、デザインはシンプルなくせに有名ブランドのだとかでかなり高尚なお値段がついている。
慌てて自分の分払う!って言ったけど、さっきのドルチェの礼ってことでいいですー、貸し借りはこれでチャラですよー、なんて。
貸し借りどころかさっきのドルチェの数十倍だよこの金額!でも普段お給料の使い道がなくていっぱい貯まってるから別にいいって押しきられちゃった…優しいんだか生意気なんだかよくわからない。


「あ…ありがとう、フラン!」

「いいえー。大した出費でもないですから気にしないでくださーい」


今度はフランから手を繋いでくれた。しかも、恋人繋ぎ。嬉し恥ずかしで顔が赤くなる。


「気持ち悪いですから顔赤らめるのやめてくださいねー」

「今ので色々と台無しなんだけど」


店を出て次は、と言いかけてやめたフラン。
なんだろ、と思って彼の視線の先…店先の道を見ると、



「ど…どしゃ降り…」

「さっきまで晴れてたんですけどねー」


いつの間にか空は雨模様の灰色に。段々と冷え込んできた、薄着のフランが隣でくしゃみをする。
このままじゃ風邪引いちゃう、早く帰らなきゃ…、迎えを頼もうかと携帯を出すつもりで鞄を漁る、と。


「(あれ?折り畳み傘…)」


やたらめったらに詰め込んだバッグから一本の傘が登場。するとそれを見ていたフランはさっさとあたしからそれを取り上げて、傘を差す。
置いてかれるのかと思ったら、「早くしてくださーい、ミー濡れ鼠はごめんですよー」って。
「濡れ蛙の間違いでしょ!」、小走りで隣に行く。ホントに素直じゃないんだから。




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