「名前、外出てみる?暑いかもしれないけど」
「えっ」
「今担当医に許可貰ってきた、庭なら、車椅子で行ってもいいって」
「………先生脅してないよね?」
「当たり前だろ」
「じゃあ行く!」
名前の身体に関わることなのに、そんな野蛮なことはしない。
どこまで僕は鬼だと思われているんだろうか。
部屋の隅に折り畳まれて置かれている車椅子を持ってきて、座れる状態に開く。
名前を抱き上げてベッドから降ろし車椅子に座らせると、
「恭くん、また背伸びた?」
呑気な彼女に、優しくでこピンをお見舞いする。
「んん、やっぱし直にお日様浴びないとだね!しおれちゃう」
「植物じゃないんだから」
「でも人間って太陽の光浴びるだけで栄養分取れたりするんだって!」
「その要訳ちょっと違う。それじゃまるで光合成してるみたいだよ」
「あれ?」
大きく伸びをする名前の手が僕に触れる。
ぽふぽふと頭を撫でてやったら、そのまま僕を見上げてきて手に名前の前髪がかかった。
名前の車椅子を押して病院の庭へ出る。
僕の足は、自然とあのベンチへ向かっていた。
誰もいない、暑苦しすぎない陽だまりの中のベンチ。
車椅子をすぐ隣に添えるようにして止めると、僕はベンチの、車椅子がある方に寄って座った。
名前は早くもまどろんでいるらしく、目が虚ろだ。
「ねぇ名前、」
「………ん、んー、…あ、はいっ」
ばちっと目を見開く名前。苦笑しつつ僕に焦点を合わせた。
「…名前は、意識を失っている間、どうだった?」
「……え、」
「………怖かったり、した?」
「……………、」
名前は俯いてしまった。
やっぱり直球で聞くのはいけなかったか。
僕の心に多少の罪悪感が芽生えた頃、名前はすっと僕を見据えて口を開く。
「怖くなかったって言ったら、嘘になる、かな」
「…………そう、」
「あ、でも、」
「なに」
夏の午後の日差しに柔らかく照らされた名前は、太陽のような笑顔で、ふわり、僕に言った。
「恭くんが居てくれたから。細かくは憶えてないけど、私にいっぱい話しかけてくれた、でしょ?」
「…………聞こえてた?」
「内容はよく、分からなかったけど………」
「……そう、」
同じ返事でも、声音に含まれた感情はさっきと違う。
彼女に、届いていて良かった。
でも内容まで把握されていたら恥ずかしすぎる。
だって僕は、
「恭くんが居てくれたから、」
君が居なかったら、きっと僕はさびしくて死んでしまうよ
「辛かったとか、苦しかったとか、寂しかったとか、全部、ぜーんぶ」
あの時の弱々しい僕を君に知られてたまるか、なんて。
君の前でくらい、かっこつけで強く在りたい。
「そんなこと、憶えてないよ」
優しく笑う君と共に、これからも、
君はそんなこと
憶えてないと笑ったね
(きっと忘れない思い出を。)
《一角獣ハート》様提出作品
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bkm