「ベールセーンパーイ」

「ンだよクソ蛙」




でっかい蛙の被り物をした生意気な後輩が俺を呼び止める。

折角名前に会いに行ってきて上機嫌だったのに、最悪。
ぜってーこいつ分かってて声かけてるって。






「センパイ今日もあそこに行ってきたんですかー?」

「…………、そだけど。何?」



暫く「言うべきでしょーか…」とか後ろ向いて呟いててイライライライラ、そんなに俺のことキレさせたいのかこいつとか
思って見てたけど蛙の被り物がこっちを見た時その下のエメラルドの瞳もこっちを向いて、




「ミーも名前センパイに、挨拶したいですー」




いつもよりかはどこか真剣な眼差しで、俺にそう言った。



「何言ってんだよ。駄目に決まってんだろ、このクソ蛙。寝言は寝て言え」

「酷いですー、そんなだから名前センパイ先に旅立っちゃったんですよー、センパイが素っ気無いからー」

「るせっ」ザクッ

「ゲロッ」


俺のナイフが3本綺麗に並んで蛙の正面に突き刺さる。
勢いで後ろに倒れこんだ後輩は、そのままぴくぴくしててキモかったから廊下に放置したまま自室へと急いだ。



「益々鬼ですー、堕王子の分際でー」

「全部聞こえてんだよバーカ」ザクザクッ

「ちょっ痛ッ」

「蛙は蛙らしくゲロゲロ鳴けよ」ザクザクザク

「いたたたっ……、容赦ないですー」


むくりと起き上がって減らず口を叩く後輩に制裁を下す。
堕王子って、俺堕ちてねーし。マジ黙れこのクソ蛙。




「ミー、名前センパイの知り合いなんですよー」

「!」


ぴたり、



手が止まった。



「昔、多分センパイは任務の帰りだったと思うんですけどー、ミーが川辺で日干しになりすぎて寝過ごしたときに
近くまで送ってくれたんですよー、優しかったなー名前センパイ」

「お前昔から馬鹿丸出しだったんじゃん」



動機が動機なもんだから、ほんの少し笑った。
名前の話なんて、もう、


誰ともしていない。









「前ベルセンパイの部屋に入った時に写真があったのを見つけましてー、その時に思い出したんですよー」

「何本人に向かって地味に不法侵入宣言してんのお前」

「ベルセンパイもあんなふうに笑うんですねー」




写真。

名前と、一度だけ遊びに行ったとき撮ったやつ。


名前は新しい私服がほしいと言って、俺はじゃあ付き合ってやるよと言って、
名前に似合うと思った服を選んでやって、ありがとうってあいつが笑って、

せっかくだから、って名前がその新しい服を着て俺と並んで撮った、写真。



今はその服も、あいつの身体と一緒に眠ってる。






「センパーイ?」

「…………、なんだよ」

「……、センパイは、名前センパイに会いたいですかー?」

「…………そんなの、」



会いてーに決まってる。


小さく小さく呟いた、
そしたら生意気な後輩はすっと俺の後ろを指差した。



「じゃあそれ、叶えてあげますー」

「は、」

「そのかわり、ミーにもお参りさせてくださいねー」




後ろを振り向く。











あの日の、あの、俺が選んだ服を着た、名前が、立っていた。




ふわりと微笑んで俺に向かって歩いてくる名前。
もうほとんど手を伸ばさなくても触れそうな距離になったその時、

名前は霧になって消えた。





「……なんだよ、今の」

「言ってくれればー、いつでも会えますけどー」



後輩に背中を見せたまま呟く。



俺は、無意識のうちにナイフを握り締めて、









振り返り、奴の首筋にそれを食い込む寸前まで押し当てた。


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