入学してから、いくらか慣れた中学校生活。

いつからか、聞こえるようになったあの人の噂。

本当なら会いたくはなかったけれど、



これって運命?




01:本当なら、出会うことは無かった




毎朝、学校に行く前に病院に通っている。
それは、あたしの学年の誰もが知ってくれていて、
ちょっと嬉しいことだった。

ギリギリなときはあったけれど、遅刻することなんて今までなかったのに、


今日に限って、何やってるんだろうあたし。



まさか朝一から病院があんなに混んでると思わなかったし、何よりいつもより30分遅れて鳴った目覚ましには怒りを通り越して呆れを覚えた。

電池買い換えなきゃなぁ…。


猛ダッシュしたのに40分遅れて学校に着くなんて、今日のあたしの運きっと今年で一番悪い。



今日は風紀委員の服装チェックの日なのに!


そう、校門の前にいるただでさえ存在感の強い風紀委員の人たちが、今日に限って毎朝よりたくさんいるっていうのに…!



もうサイアク。
一応学校のほうには万が一も考えて連絡はしてあるけれど、そーゆーの無視しちゃうのがうちの風紀委員長様。



咬み殺されるに決まってる!



案の定、一時限目を終えた直後に放送で応接室に呼び出しを喰らったのは言うまでも無い。


愛用のスケッチブックを抱きしめて、同情の目を向ける生徒の間をすり抜ける。

うるさいうるさい。
あたしだって好きで行くんじゃないやい。


応接室へと続く廊下には生徒どころか人っ子一人もいない。


あぁ、今更ながら、後悔。



すごく優しく扉をたたけば、

「入れば」

…うん、予想はしてたけどね。
委員長様じきじきのお叱りですか…(泣)



扉を開けて、床に向いていた視線を部屋に戻す。


「遅い。呼び出してから10分経ってる」

【すいません】

予想的中。まず最初はごめんなさいだよね。

委員長様は、あたしがスケッチブックで筆談(応答?)するのを見て、ほんのちょっと目を見開いて、無愛想に、座りなよ、と告げた。


「君、今日遅刻した南羽無でしょ」

【おっしゃるとおりです…】

「一応教師から連絡は聞いてたけど、君、40分はさすがに遅いよ」

【すいません…
…咬み殺さないでください…】


震える手でスケブを見せると、つまらない顔をして聞いてきた。


「君、なんでさっきから筆談なわけ?」


そう、あたしが筆談の理由を知っているのも、
あたしの学年だけ。


【あたし、のどが生まれつき弱くて、しゃべると炎症起こしちゃうんです】

「ふーん。だから病院にも通ってるんだ」

【そのとおりです。毎朝受診してて、今日だけ、病院混んでて…】

「………なんで泣きそうなの」

【雲雀サン、初めて見るんです。だから、その、怖くて…すいません…】

「………………あっそ。」

目に涙を溜めて筆談するあたしに向ける委員長様の目の色が、そのとき無関心ではない色になった気がした。


「…南」

【なんでしょう…】

「君には、罰を受けてもらう」

ビクッ、あからさまに反応を示すあたしを見て、委員長様は笑ってる。
…気がする。


「君には、風紀委員になってもらうよ」

!【なんでですか!】

「君を咬み殺さない代わりに与える罰さ」


ちょっと楽しそうに笑う委員長様に、恐怖以外の感情を持ったのは、これが初めてのこと。


…───怒りを、覚えた。


委員長様に、雲雀サンに覚えるのは、恐怖と怒り。

風紀委員に入るなんて、一番避けてたことなのに。


小学生のときの記憶が甦る。

『クォーターだからって調子にのんなよ!』

『綺麗な顔してると思ったら大間違い!』

『今からあんたの顔も体もぐちゃぐちゃにしてあげる』

『声が出ないんでしょう』

『助けも呼べないわね』

『あわれな南』

『『『ざまあみろ!!!』』』



段々と顔が青ざめていく。
足が震え、体中があの時≠フことを思い出している。
ここに居たくない。雲雀サンの見える場所にいちゃいけない。


「…? どうかしたの、顔色が」

【とにかく、風紀委員にだけは入りません。関わりませんから】


最後に深くお辞儀をして、応接室を出た。

またあんな思いするくらいなら、あの最凶委員長様にだって逆らってやる。


「……………気に入ったよ
彼女は必ず僕のそばに置いてみせるよ

…風紀委員に、入らせる。」

どこからともなく現れた副委員長様に委員長様がボソッと告げたのを、あたしは知らない。





本当なら、出会うことは無かった。
そして、関わることも無かった。
今までも、これからも。

本当なら。


next.


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