「あ〜〜〜っ!!

こんな大変なことになっちゃって!オレどうなっちゃうのー!?」



獄寺くんがやられた。

オレが駆け付けたときには、もう勝負はついてた、筈だった。


相手の眼鏡に帽子の人が、オレが来たことでオレに標的(ターゲット)を変えて狙ってきて、獄寺君が情けなくも恐怖で動けないオレを庇って、それで…───。


レオンは繭になっちゃうし、南どころかヒバリさんも戻らないし…。

やっと帰ってきたリボーンにはとんでもないこと聞かされるし…


2週間前にイタリアの大罪を犯した凶悪なマフィアばかりを収容している監獄で、集団脱獄事件が起きたんだ

脱獄犯は看守と他の囚人を皆殺しにし、その後マフィアの情報網から脱獄の主犯と部下2人は日本に向かったという足取りがつかめた。主犯はムクロという少年らしい

そして黒曜中に3人の帰国子女が転入しあっという間に不良をしめたのが10日前のことだ。リーダーの名を六道骸


奴らは、マフィアを追放されたんだ


そんなおっかない奴らが相手だなんて…聞いて喜んで飛び込んでくのヒバリさんくらいだよ。
そのヒバリさんも帰って来ないんだけどさ…


オレが座り込んで頭を抱え込むと、目の前の小さなヒットマンは腕組みをしながら平然と言い放った。


「どーなるって骸達を倒すしかねーだろ」

「バカ言え!!そんな奴らに勝てるわけねーだろー!!?」

「できなくてもやんねーとなんなくなったぞ」

「はあ!?」

「初めてお前宛に9代目から手紙がきたんだ」

「な──!9代目だって!?」

「読むぞ」


懐から手紙の入った封筒を取り出すリボーン。



「親愛なるボンゴレ10代目、君の成長ぶりはそこにいる家庭教師からきいてるよ。
さて…君も歴代ボスがしてきたように、次のステップを踏み出す時がきたようだ。


君にボンゴレの最高責任者として指令を言い渡す。
12時間以内に六道骸以下脱獄囚を捕獲、そして捕らえられた人質を救出せよ。
幸運を祈る  9代目=v

「ちょっ…、何だよこれ──!」

9代目。今のボンゴレのボス、一番偉い人。
その人から初めてオレ宛に送られてきた手紙は、要するに事件の犯人を捕まえろってことで。
ただでさえ知り合いが立て続けに襲われてテンパってる頭がパンクしてしまいそうになる。


「追伸、成功した暁にはトマト100年分を送ろう=v

「いらねーよ!!」

「ちなみに断った場合は裏切りとみなしぶっ殺……=v

「わーっわーっ!!聞こえない聞こえない──!!」


そのまま走り出したオレは、リボーンを振り返ることなく学校を飛び出した。

オレには関係ない。
冗談じゃない、そんなことに巻き込まれたら大怪我じゃ済まないかもしれないのに。
マフィアなんかと関わってられるか、痛い思いをするだけでいいことなんかちっともないんだから。


オレは一心不乱に町目指して走り抜けた。
心の中で、臆病に必死に言い訳してる自分がカッコ悪いな、と思いながら。








***







「………ったく、リボーンの近くにいるとロクなことねーよ」



残暑の日差しの中走ったことで滲む額の汗を手の甲で拭う。
ここまでくればリボーンも追い掛けてこないだろう。
一人ホッとしながら表情を緩めていると、立ち話をするおばさんたちがオレを横目にひそひそ話し出した。


「あら、あの子並中生でしょ?」

「並中って例の事件で今日、学校閉鎖したんでしょ?」

「大丈夫かしら、ふらついてて」


「はっ!!(そーだった…町も全然安心じゃない!)」


逃げたって逃げ場なんてない。
安全で安心出来る場所なんて、この町にはもうないのかもしれない。

こうして歩いているだけでも、今にも誰かが襲ってくるんじゃないかって…そう考えただけで身震いしてしまう。
弱い自分。痛いのは嫌だし、怖いのも嫌だ。だったら逃げないと。
そう思う度に、このままでいいのかな、と罪悪感が胸を掠めていく。


「安全な場所はもーねーな」

「リボーン!!」


ふと独特な声がして、弾かれるように隣のブロック塀の上を見やれば、両手で頬杖をついたリボーンが横になっていた。

考えていたことと同じ言葉を改めて言われることで、緊張感や焦りが自分の中に込み上げてくる。


「しかも獄寺をやった奴にお前がボスだってバレてんだ、奴らは直接お前に狙いをつけてくるぞ」

「ひいいい、そーだった──!!オレどーすりゃいいんだ───〜!?
リボーン!どーしよー!!怖ぇーよ〜!!」

「もうわかってるはずだぞ」


凛とした幼い声音にオレは耳を澄ませる。

恐怖だって全然薄れないし、今だってオレには関係ないんだと叫びたくてしょうがなかった。
けれど、オレはリボーンの言葉を聞いて息を飲んだ。



「奴らがお前を探すためにやったことを忘れるな」



始めに思い浮かんだのは、オレを庇って倒れた獄寺くん。
次に、襲われて大怪我をして治療中の、京子ちゃんのお兄さん。
お兄さんのお見舞いをしながら心を痛めて涙ぐむ京子ちゃん。
病院を出てすぐに襲われて運ばれた、風紀副委員長の草壁さん。


皆、皆、オレのせいで奴らにやられて、つらい思いを、痛い思いをさせてしまってる。


「お前が逃げれば被害はさらに広がるぞ」


これまでのは、オレを探すためにやられたこと。
オレがボスだってわかった以上、奴らはどうしてでもオレを狙ってくるだろう。


「そ…そりゃあ、」


そのために、これまでよりもっと酷いことをされないという保証はない。
オレが逃げたら、また誰かが傷ついてしまう。…オレの代わりに。


「そりゃあオレだって奴らのやり方おかしいと思うよ。皆まで巻き込んで…骸ってやつムカつくよ!

だけど、あのヒバリさんも帰ってきてないんだぞ…。そんな奴らダメツナのオレに倒せっこないよ…──ムチャだよ…」

「だけどまわりはそう思ってねーぞ」

「……え?」


「お!いたいた!」



聞き覚えのある明るい声。それのする方へ視線をやると、


「オレもつれてってください!
今度はメガネヤローの息の根止めますんで!!」

「獄寺君!!

つーか怪我は大丈夫なの?フラフラだったよ!?」

「あんなのかすり傷っすよ!」


「オレもいくぜツナ!今回の黒曜中のことはチビに全部聞いたぜ…
学校対抗のマフィアごっこだって?」

「(だまされてるよ山本───!!)」


「私もいくわ!
隼人が心配だもの」

「ほげ──っ!!」

「(逆効果ー!!)」



続々と出てくるメンバー。
獄寺君に山本、そして…ちょっと不安にもなるけど、ビアンキ。

「よし、敵地に乗り込むメンツはそろったな」

「うそ──!ちょっと待ってよ!勝手にそろっちゃってるー」


「いつまでもウジウジしてんじゃねーぞ、ツナ。今こそ守りから攻めに転じる時だ。
奴らのアジトは新国道ができてさびれた旧国道の一角だと思われる。多分人質もそこにいるはずだ…

お前達のよく知る人質がな」


ごくり。唾を飲み込む。
行かなきゃいけない。オレが行かなきゃ、また誰かが傷ついてしまう。
覚悟を決めよう。


「んじゃあ、30分後に集合な」

「了解です、リボーンさん!」

「ならちょっくらオレ家戻るな!ツナ、またあとでな!」

「リボーン、先に帰ってるわよ」


それぞれが用意をしに一時的に帰っていく。
ぽつん、と路上に残されたオレ。とっとと帰って用意するぞと後ろから蹴ってくるリボーン。
にしたってさ…、やっぱりヒバリさんもいない今突入ってのも不安だよな…。
あの人、普段は怖いけどこういうときすごい頼りになるっていうか…、
そこまで考えて、オレははっと気付く。


「な、なぁリボーン。そういえば南って見つかったのか?」

「さぁな。今どこにいるのか、それはオレにもわかんねぇ」

「大丈夫かな…、町は今こんな状態だし。京子ちゃんも連絡取れないって言ってたから家にもいないだろうし…」

「案外里帰りしてたりしてな」

「無断欠席してか!?しかも南ってイタリア育ちだろ!?親御さんの実家海外じゃねーか!!」

「んなこと言ってもわかんねぇもんはわかんねぇ。いいからお前はとっとと帰って着替えでもしとけ」


後頭部に入るリボーンのドロップキック。超痛い。
頭を擦りながら家までの道を辿るオレの横を、ブロック塀の上を歩きながらリボーンがついてくる。


「……まさか、な」

「え?リボーン何か言った?」

「いや、何でもないぞ」




オレはこの時知らなかった。
リボーンがさっき、ディーノさんとの連絡で、この事件に関する情報とは全く無関係の、
それでいて超重要な情報を手にしていたことを。


オレたちがその内容を知るのは、もう少し後の話。



***

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