獄寺くんと山本が店やってるのには驚いたけど、ほんの少し興味もあったし
オレがやらないわけにもいかないなと思いつつ、一緒に店をすることになったんだけど。


まあまあの売れ方をしていたチョコバナナ。
ところが、しばらくして祭りで賑やかなはずの道がだんだん静かになっていく。
何かあったのかと思ったけど、他の屋台の人とか祭りに来てる人が

「あれは!」

「関わらない方がいいわ」

などと言い出した。
獄寺くんたちの話によればショバ代を回収するためにこのへんを取り締まってる奴らが
祭りに来てるらしいんだけど…、なんかそういう物騒なの、知っての通りオレやなんだよね…。

「来た!」

ざっと人込みが2つに割れたとき、そのひとたちは姿を現した。




「5万」

「ヒバリさんーッ!!?」


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!ナゼ!この人が!

浴衣姿の南と手繋いでショバ代回収!!!!??


「ショバ代って風紀委員に―――!?」

「活動費だよ」


さらっと言ったこの人。
南は横で【こんにちはー、すごい、お店やってるんだ】なんて
のんびり言ってるんだから物凄いギャップだ。
ちなみに徐々に暗くなってく外では筆談は見づらいと判断したのか
彼女は携帯電話のメール新規作成画面に文字を打ち込んでいる。


えええ、手繋いでることに関してはノーコメントの方向でいいんだよねコレ。
ていうかオレが南の格好に驚いてまじまじと凝視してたら、ヒバリさんが
死ぬほど冷たい視線をオレに送ってきた。なんだよなんだよ。

「払えないなら 屋台をつぶす」

そのままヒバリさんは口角を上げてフッと笑った。
視線が視線だからものっすごく怖い顔してるよ。


「待ってください!」

と、悲痛な叫び声。
オレたちがそっちに目をやる前に、ヒバリさんは持っていた封筒を小脇に抱えると
南の両耳を自分の両手で塞いだ。そしてそのまま、声の聞こえるほうとは反対のほうへ
南の顔を向ける。

「やっぱり払います!払いますから!!」

「(実際につぶされてる――!!)」

声のしたほうでは無残にも風紀委員の人たちに屋台がつぶされていて、
店員の人が青筋を立ててその風紀委員の腰にしがみついている。
うわあ…としかコメントが出来ない。無理無理、あんなことされたらたまんないよ…!


「たしかに」

「(うちの風紀委員地元最凶〜〜〜〜!?)」


オレからショバ代を受け取って札の枚数を数えると、ヒバリさんは小脇に抱えていた
封筒へソレを仕舞う。
南はといえば、耳を塞がれ視界は反対方向へ、要するにヒバリさんによって
見えない聞こえないの状態にされたのだからあの悲惨な状況など知るはずもなく。
のほほんと山本からチョコバナナを受け取っていた。

手を振ってヒバリさんと再び回収に向かう南の顔は依然と晴れやかで、
ショバ代回収につき合わされるというより普通に祭りを楽しんでいるように見える。


でも、今考えてみれば、ヒバリさんが南にあの状況を見えないようにしたのって、
南が暴力嫌いだから…、だよな?

汚いところは見せない、彼女が悲しむことはしない、ってことでいいんだろうか。




夕焼けから闇色に染まっていく空をちらりと見上げてオレは思った。









「(ヒバリさんて南のことになると本当に不器用なのかも)」





その不器用な優しさで南が困惑していることも、
きっと気付いていないんだろうな。






オレはこのとき思いもしなかった。


ヒバリさんの優しさと行為が、南を、

まさか南を、



再び闇に陥れる理由になるなんて。




***






南が浴衣を着ていたのを見つけたときは、
その言葉通り心臓が飛び出るかと思った。

普段制服の時はあまり気にならないものの、
浴衣となると少しばかり体型が目立つようで、
一緒に屋台を廻っていたであろう二人の女子に比べ
色気がなかったのは言わずとも分かるだろう。

まあ彼女は童顔だし、胸もないし。仕方ないといえば仕方ない。


だけど一緒に集金をしているうちに僕が勝手に意識するようになってしまって、
最初はただ誘導のために握った手がだんだんと熱くなってきて、
たとえ恐れられた存在の僕でも彼女といたらそれなりにそれっぽく見えているのかなとか、
変ににやけてしまいそうな顔を引き締めるために一々彼女を睨んでしまったり、
隣で歩いていたら僕が壊れてしまいそうなほど心拍数が跳ね上がるから早く歩いてしまったり。

南が走ったりするのが得意でないことも僕は知っていたのに。
よりにもよって今日は浴衣に下駄だ。走るには不便な格好。
こういうとき、本当に自分の性格を後悔する。



もう一度握った彼女の右手はやはり僕の左手よりもずっと小さくて、
走ったせいかやや速い血の流れる感じが肌から伝わってきて。
申し訳ないな、と。ただ、そう思った。
彼女の代わりに右手に持った封筒は以外にも重たくなっていて、
文句も言わず持ってくれていたんだと思うと、心の奥が温かくなった。
でも、言いたくても言えなかったのかな、と考えたら、胸に穴が空いたような虚無感に襲われる。
だって、僕は「僕」なのだから。






【神社のほう、なんだか騒がしいですね】

「ん?………ああ、」


薄暗い中夕陽に照らされて金に光る彼女の柔らかい栗毛。
その彼女の手の中には桜色の携帯電話。
メール新規作成画面で電子文字が目にちかちかする。

ぱたん、携帯を閉じると、南はふいと階段の上の
神社の境内のほうを見上げた。確かにざわざわと耳障りな声がする。


「ちょっと見てくるよ。封筒持って待ってて」

「………(見るだけじゃどうせ済まないくせに)」


唇をへの字に歪めて不満そうな顔をしている南に封筒を押し付けると、
やれやれ仕方ないといった風で両腕にそれを抱えた。
丁度上の群れを咬み殺した後ぐらいに花火が始まるんじゃないだろうか。
連れの女子二人とははぐれてしまったんだし、南はどうするんだろう。
まあ無理矢理回収に付き合わせたのは僕だけど、ね。



無意識のうちに上がっていく口角。
ジャキンと金属音を立てると、トンファーを構える。
嗚呼、そういえば今朝見た資料の中にひったくり集団の問題もあったな。
今日中に見つかればいいんだけど、まさか…。



うれしくて身震いするよ





本当に、今日はいい日だよ。



「うまそうな群れをみつけたと思ったら追跡中のひったくり集団を大量捕獲」

「ヒバリさん!!!」

「んだっこいつは」

「並中の風紀委員だ」

「集金の手間がはぶけるよ…、君たちがひったくってくれた金は風紀が全部いただく」

「ああっ!?」


予想通り、見るからに風紀を乱している格好のチンピラ集団。
ひったくり犯の仲間…、と考えていいだろう。

そしてその主犯に胸倉を掴まれているのは…、さっきも見た顔、

沢田綱吉。

またこいつか…。まあいいや、今日の僕はなかなかどうしてか機嫌がいいんだ。
だから君は見逃してあげよう、僕の邪魔をしなければ。


どこからかあの赤ん坊の声がして、沢田綱吉に銃弾が放たれる。
また性格が変貌して下着姿の、あの別人な沢田綱吉になった。
僕一人で片付くのに。
ひったくり集団から金を奪い取って、こいつらは一人残らず咬み殺す。
うん、それで決まりだ。






嬉々として獲物を振るう僕の頭の中には南のことは入っていなくて、
久しぶりに咬み殺し概の有る人数に会えた喜び、それだけだった。


だけど、


ドガァン


爆発音がした、ということは…、また彼らだろう。


「10代目!!」

「助っ人とーじょー」


やっぱり。獄寺隼人に山本武…。
こいつらは必ずセットだからね。まったく…、草食動物らしいよ。


姿を現した赤ん坊の声を耳にしながら、次に薙ぎ払う標的を目で追う。
これ以上群れの中を集金に歩くのも面倒だ。ひったくった金をもらえば
全部の屋台を廻ったのと同じくらいは集まるだろう。




今思えば僕はこのとき、さっさと群れを咬み殺して南の元に帰っていれば良かったんだと思う。
ひったくり犯から金をもらったあと、沢田たちの分の金を理由に奴らと遊んでなんかいないで。


だって、その時南は、







南は、







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