雲雀サンとお花見に行った日から大分経ちました。軽く3週間ほど。
ついこの間まで桜が満開だったのに、もう散ってしまった木がちらほら。



今日は生憎の雨天。道の端に積もっていた桜の花びらの山は雨水で濡れて
ぐしょぐしょに汚れていた。

風紀のお仕事を終えて今あたしは帰宅中。新しいクラスには京子も花もいるし、
ツナくんたちいつものメンバーも揃っていて、楽しい時間を過ごしている。
今年は何事も無く終わればいいのになぁ。


「あ、羽無姉…?」


ふと、聞き覚えのある声がして、そちらを見やれば、コンビニの屋根の下で
ぐったりとしてるフゥ太くん。ああ、雨だから調子悪いのかな?


【大丈夫?フゥ太くんどうしたの?】

「ママンに頼まれておつかい…そしたら、帰る途中で雨が降ってきちゃって…」

【そっか、えらいえらい。あたし送ってってあげるよ】

「ほんとう?」

【うん。ずっとこんなところに居たら風ひくし、行こうか】

「ん。羽無姉ありがとう」

【どういたしまして】


傘にフゥ太くんを入れてやると、「わーい、羽無姉と相合傘だー」と
少し元気になるフゥ太くん。そういう知識はどこから来てるんだ?

ツナくんちに向かって二人で歩いた。
ぱしゃぱしゃと水が跳ねる。
なんだか、弟が出来た気分だ。
手を繋いで歩いていたら、あっという間にツナくんちに着いて、
あたしはインターホンを鳴らす。ツナくんのお母さんが出た。

「あら羽無ちゃん!どうしたの?」

「ママーン」

「まぁフゥ太くん!おつかいありがとねー」

「ううん、羽無姉が送ってくれたの」

「そうなの!?羽無ちゃんせっかくだから上がっていって!」


あたし何も言ってないのに話が進んでます。


フゥ太くんに手を引かれて、結局ツナくんちにお邪魔することになりました。
ツナくんのお母さんが2階に向かって「ツッくーん、羽無ちゃん来てるわよ!」と声をかける。
するとツナくんよりリボーンくんが先に下りてきて、ツナの部屋に上がれ、と言われた。
お母さんに頼まれたものを渡したフゥ太くんが、とてとてと後ろについてくる。
お邪魔します、と心の中で呟いて、ツナくんのお部屋にお邪魔した。


「南、フゥ太ありがとう、ごめんね雨の中…」

【ううん、大丈夫だよ。気にしないで】

「ツナ、せっかくだから羽無に聞いてみたらどうだ?」

「え、でも…」

「ぐずぐずするな、聞けるときに聞いとくのが一番だぞ」

【何の話?】


座布団を頂いてその上に横座りする。首を傾げるようにして聞けば、
目の前のテーブルに飛び乗ったリボーンくんがあたしに言った。

「ヒバリとのことだぞ」

【雲雀サン、のこと?】

「あ、あぁ、うん、まぁ、そうなんだけど…」

フゥ太くんが隣に来て座る。どことなくムスッとした表情をしていた。
階段を上ってくる音がして、部屋にイーピンちゃんとランボくんが入ってきた。

「その、ヒバリさんが、ね」

「とっとと言いやがれダメツナ」

「う〜…分かってるけどさぁ…」

「ツナが言わねぇならオレが言うぞ」

「いっ、いいよ!オレが聞く!」

【雲雀サンが、どうかしたの?】


首を傾げて続きを促すと、ツナくんが単刀直入に言うね、と言った。



「南とヒバリさんってどういう関係なの?」

「ふぇ!!!!??」

「羽無、声に出てんぞ」

「あ」


驚きのあまりまた声に出してしまった。
鞄からごそごそとのど飴を取り出して口に放り込む。
ランボくんが「飴!ランボさんにもちょーだい!」と言ったけどリボーンくんが
「話の腰折るんじゃねぇ」と言って飛び蹴りをひとつお見舞いした。


【関係って、委員長と委員だよ?】

「そうじゃなくって…えーと、なんて言えばいいんだ?!」

「この間あったことを素直に話せばいいじゃねーか」

「う、うん…。南、この間ね、オレヒバリさんに会ったんだ」


進級して二日目のことなんだけど、ヒバリさんが人引きずってて、
オレとロンシャンの二人でばったり会っちゃって…。

そう苦いものを噛んだような表情のツナくん。
もしかしてまた雲雀サンに咬み殺された感じですか。


「で、オレが南は一緒じゃないんですか≠チて聞いたんだ」




「? なんでだい?」

「いや、いつも一緒な気がなんとなくして…」

「ふぅん」

「あ、いや!すいません!余計なこと言って!!」

「彼女にはね」

「……へ?」

「こういうの、見せたくないから」


ぽいっ、と引きずっていた人(おそらく違反者)を捨てるヒバリさん。
そういえば、花見のときも南は喧嘩の見えないところに隠れてたっけ。

ヒバリさん、結構南のこと大事にしてるのかな…


「ねーねー沢田ちゃん!南ってコ、まさかのまさかうちのクラスのあのコ!!?」

「え、うん、そうだけど…」

「っへー!風紀委員なんだ!そうそう、さっき見たけど、そのコ体育館裏に呼び出されてたよ」

「!!!」

「なんでも、入学したての一年生に一目惚れされたとかで…青春だねーッ!!!」

「あー、南モテるもんなぁ。…!ひ、ヒバリさん?」

「………なんでもない、それより、君たち風紀委員に入りたいんだって?」


――――――――………





というわけなんだ、


ツナくんが一頻り話し終えて、ふぅと息をつく。


ツナくんに代わって、今度はリボーンくんが口を開いた。

「お前、ヒバリと恋人かなんかか?」

「!!!!!!!!!!!////////」

「やっぱりな」

「ち、ちが!」

「また声に出てんぞ」

「はっ!」


スケブを持ち直してリボーンくんに言う。
た、たしかにあたしは一方的に彼を好きだけど、そ、そんな…っ。

【恋人なんかでは、決してないですっ】

「お前はヒバリが好きなんだな」

っわー!!!!//////や、やめてぇぇえ」

「オレは読心術を会得してるんだ」

【やめてやめて、言わないでっ】

「そっか、やっぱり南は…」

【ツナくんもやめてってば!】


顔が真っ赤になっているのが鏡を見ずとも分かる。
やだやだ、ずっと誰にも言わないで隠してきたのに!!!
きょ、京子には言わずとも大体知られてるだろうけど!

は、と気が付いて隣を見るとフゥ太くんがいない。
イーピンちゃんやランボくんも一緒にいなくなっている。
二人はフゥ太くんを追いかけていったみたい。

「フゥ太のやつ、失恋したな」

「ものすごい真っ白な顔してた…」

【え?え?どういうこと?】

「涙ぐんでたな」

「ありゃしばらく立ち直んないな…」

【えー!あたしのせい!?謝ったほうがいい?!】

「羽無自身がこれじゃヒバリも苦戦すんだろな」

「…………、」

【もー!訳分かんないよっ】


二人の会話についていけない…!

ふと部屋の時計を見る。もう6時になりそうだ。


【やばい、もうこんな時間!帰ってやんなきゃいけない資料があるんだった!】

「あ、南帰るの?」

【う、うん!慌しくてごめんね、今度改めて遊びに来るよっ】

「またな羽無」

【よく分からないけど、フゥ太くんにごめんって伝えておいてー!!!】


全速力で階段を駆け下り、ツナくんのお母さんに声をかけてダッシュでツナくんちを出た。
今度来たときは夕飯も食べていってね、と言われた。楽しみ!


帰り道を走りながらツナくんの話を頭の中でぐるぐる思い返していた。


『南とヒバリさんってどういう関係なの?』

『お前はヒバリが好きなんだな』


「こういうの、見せたくないから」


雲雀サンって、あたしのことどう思ってるんだろう。

今回の話を聞く限り、まるで雲雀サンがあたしのことを大切に思ってるみたいに………―――


首を横に振る。

ううん、きっと使える有能な委員の一人くらいにしか思ってない、

頭によぎる、彼と過ごした短くもあたしにとって大切な時間たち。



再び風紀委員に入れてくれたこと。

一緒に年を明けて、初詣をしたこと。

バレンタインデー、チョコをあげて、ホワイトデー、お返しを貰ったこと。

ほんの少しだったけれど、一緒にお花見をしたこと。




大切で、忘れたくない記憶の欠片たち。

二人で過ごした時間はいくつもあって、
からかわれたりもするけれど、おいしいココアを淹れてくれたりもして、


ねぇ、自惚れてもいいよ、ってこと?




next.

3/3

[prev] [next]



 back