委員長様に言われて、やりたくも無い風紀委員の仕事。

重たい資料を持って、印刷室まで往復しなくちゃいけないなんて…





帰ってきたら、何故、

スリッパ?




03:多分、本当の始まり




単調な作業の繰り返し。
コピー機の前に立ってたくさんの資料のコピーを続ける。

嫌でも、資料の内容を暗記しちゃうじゃないか!




やっと終わった。
そう思って、最初の二倍の量のプリントの束を持って印刷室を出た。

途中先生たちまでがあたしの左腕の腕章を見て青ざめ、離れていくけれど、


そんなの、相手にしてられるかーッ!!!!




多分、いまあたし涙目なんじゃないかな。
泣いてる。絶対泣いてる。

やりたくも無い仕事やらされて、これから帰りたくも無い応接室に帰って、会いたくも無い委員長様にこの大量の資料を手渡さなければならないなんて。


いろいろと、屈辱。
プライドとかそんな立派なものあいにく持ち合わせてはいないけど、






嫌なものは、嫌なんだ───────ッ!!!!!!



あたしの絶叫は、悲しいことに音として周囲に響くことは無いのだった。



***



「プリントにあるように、これが二学期の委員会の部屋割りです」


会議室。
そこでは、二学期の委員会の部屋割りが発表されていた。
特に盛り上がるわけでもなく、ただ司会の声だけが会議室に響いていた。



…──ある女子生徒の声を除いては。


「えーっ何コレ!?応接室使う委員会ある、ずるい!どこよ!」


身の程知らずな女子生徒は、あろうことか応接室を使う委員会に抗議の声を上げたのだ。

両隣の生徒が青ざめる。
顔には出さずとも、他の生徒も同じ心境だろう。


「風紀委員だぞ!」

「はっ!!!」


耳打ちするように危険を知らせる隣の生徒の声に、その女子生徒は声まで出して、自分がやってしまった過ちに大きく後悔した。


「何か問題でもある?」


一際響く、存在を強調するかのような一人の声。
女子生徒は、分かりやすいほどに反応し、立ち上がって


「いえ!ありません! すっ、すいませんヒバリさん!!」


と謝罪の声を上げた。



「じゃ―… 続けてよ」



誰もが彼の機嫌を損ねずに済んでホッとしたことだろう。
だがそこに、再び身の程知らずな生徒の声が響く。

複数の男子生徒の声だった。


「でもおかしくね? 応接室を委員会で使うってのは」

「のっちもそー思う?」

「インボー感じちゃうよ」


あぁ…。
心の中で、皆がため息をついたとき。


「君達は仲良し委員会?
代表は各委員会一人のはずだけど…」


その声で、会議室にいた全員が、

あいつら、手遅れだ。

そう悟った。




校舎が向き合う中庭あたりで、二人のうち片方の風紀委員が呟いた。



「ヒバリにたてついたのが悪いんじゃない

ヒバリの前で群れたからこうなったんだ」


そこには半殺しにされた先ほどの男子生徒と、そのうめき声だけが残っていた。


雲雀は、その光景を欠伸しながら眺めていた。
そして、

あとで情報の伝達ができてなかった草壁も、咬み殺さなきゃ。

そう、心の中で呟いた。



***



あたし、南羽無は、ただいま、屋上にてツナくんたちとお昼ご飯を食べています。

え、用は済んだのかって?
もちろん資料は委員長様の机の上においてきましたとも。
でもね、気づいたんです。



このままじゃ、お昼食べ損ねるじゃないかっ!!!!!



というわけで、ツナくんたちのところにお邪魔して、一緒に食べてるわけ。
教室だと皆に腕章のこと聞かれてめんどくさいし、あんまり人が大勢いるところは好きじゃない。
特にお昼時なんて、皆騒ぐからうるさいし。



サンドイッチを食べながら、ツナくんたちと軽くおしゃべり。
アホ牛?なんか獄寺くんが言ってたけど、誰だろう…。

そこに、幼い声が届いた。


「栗もうまいぞ」


栗が飛んできて、ツナくんに刺さった。

リボーンだな!とツナくんが振り返ると、見事なまでに栗な男の子の赤ちゃんが立っていた。


カモフラージュ、スーツ?
にしては、着てて痛くないのかな…。ていうか、赤ちゃん?だよね?


帽子をかぶりなおしたその子は、リボーンというらしい。
おしゃぶり付けてるけど、スーツ着てるし…ホントに赤ちゃんなのかな?


「ファミリーのアジトを作るぞ」


赤ちゃんの一言でなにやら盛り上がり始めたツナくんたち。
よく分からないので聞き流していたのだが、思い出してしまった。


応 接 室 に 帰 ら ね ば 。


そこに、赤ちゃんが声をかけてきた。


「ちょうどいい、そこのお前、名はなんていうんだ?」

【南 羽無、っていうんだよ。
君の名前も教えて?】

「オレはリボーンってんだ。よろしくな、羽無。
早速だが、応接室に案内してくれ」


なんだかよく分からない上に、危険だよ、と言うと銃を向けられた。
あれ、よろしくって言ったからてっきり仲良くなれたと思ったのに。
てゆーか忠告してあげたんだぞ?
銃を向けるとは何事だ。


でも、あたしも応接室に行かなきゃだったし、ちょうどいいから案内してあげることにした。



***



南が、帰って来ない。

コピーを頼んだ資料はちゃんと運んであるのに、本人がいない。

暇だなぁ…。帰ってたら遊ぼうと思ってたのに。からかうかなんかして。


そう思っていたところに、3匹の草食動物の群れがやってきた。

「へ〜〜、こんないい部屋があるとはね―………!」

「君 誰?」

一番最初に入ってきた草食動物が、僕に気づいた。
そして、見た目から明らかに不良であろう2匹目の草食動物に声をかけた。

「風紀委員長の前ではタバコ消してくれる?
ま どちらにせよただでは返さないけど」

「んだとてめー!!」

「消せ」


腹を立てたのか前に出てきたそいつのタバコをトンファーで消す。
1匹目の草食動物はどうやら僕のことを知っているらしく、僕を見て青ざめた。

「僕は弱くて群れる草食動物が嫌いだ
視界に入ると…

咬み殺したくなる」


ちょっと威嚇しただけでほら、動けなくなる。
2匹の様子に気づけなかったのか、3匹目が入ってくる。
1匹目の静止の声も遅く、僕はあっさりと3匹目をトンファーで殴り飛ばした。
次にまっすぐ突っ込んでくる2匹目にトンファーを食らわせ、
もう片方のトンファーを取り出し、最後に残った1匹目を
トンファーで襲う。
反射神経がいいのか、避けているようだけど、

「ケガでもしたのかい? 右手をかばってるな」

「!」

「当たり」


蹴り飛ばして、こいつも終わり。

まったく、余計な奴等は来るのに、どうして南は来ないんだろう…。

そこに、最初に殴り飛ばしたやつが起き上がって、1匹目と2匹目のことで騒ぎ出した。


「起きないよ。
二人にはそういう攻撃をしたからね」

「え゛っ」

「ゆっくりしていきなよ。救急車は呼んであげるから」


なにかヘンな銃声がしたあと、その草食動物はさっきとはうって変わって大きな声を出して僕に向かってきた。


「何それ?ギャグ?」


アゴにトンファーが当たる。イイ音がしたから、アゴ割れちゃったかも。
まだ殺り足りなかった僕は、気絶している後ろの二人に向き直った。すると、後ろで起き上がっているらしい音がして、振り向いたら


「まだまだぁ!!!」


…殴られた。
その草食動物は、どこからかトイレスリッパを取り出して、

僕を、はたいた。



…頭に、血が上る。
本気で咬み殺さないとかな、と思ったそのとき。


今の様子を見ていたであろう南が、
応接室の入り口で呆然と立っていた。



────………



彼らを案内する途中、先生に呼ばれたため、行き方だけ告げて彼らから離れた。


そしたら、どうだろう。

急いで急いで応接室へと向かえば、
下着姿のツナくんが委員長様を殴っていた。

そして、…トイレスリッパ?で、


委 員 長 様 を は た い た 。



なんて命知らずな!
あのプライドの高い委員長様にそんなことしたら…!!!


委員長様はフラフラと起き上がり、

「ねぇ…



殺していい?」


と、本気で、言った。


こちらに気づいたのか、あたしを見て委員長様は、多分一瞬目を見開いた。

そのとき、


「そこまでだぞ」


リボーンくんの声が、応接室に響いた。


「君が何者か知らないけど、 僕今イラついてるんだ
横になって待っててくれる?」



委員長様がリボーンくんに向かってトンファーを振り下ろす。
静止の声が出ない。
…なんと不便なことか。

ところが、リボーンくんはそれを防いだらしい。
委員長様で見えないが、リボーンくんに当たった音はしないので確実なはず。


「ワォ。君、すばらしいね」

「おひらきだぞ」


そんな会話が聞こえたかと思うと、委員長様がこちらを振り向き、


「南!廊下出て!!!」


一瞬反応が遅れ、動こうとしたが、
…突然のことに足が固まって動けない。

…実に情けない。


「…………………っ、馬鹿ッ!!」

委員長様がそう言うと、爆発音とともにすごい勢いで体が引っ張られた。




視界は何故か真っ暗だ。
匂いからして、煙が漂っているのだろう。


「…まったく、君ってやつは…。
危なっかしいなぁ、ホントに、馬鹿…」



心配、してくれたのかな。
視界が開けてきた。かと思ったら。








あたしは、委員長様に抱きしめられていた。




どうやら、委員長様が力ずくでひっぱってくれる際にポジションが腕の中になってしまったらしい。
恥ずかしい、というより、なんだか申し訳ない。


「委員長!南さん!!大丈夫ですか、今の爆発音、は………」

副委員長様が、心配してやってきてくれた。
けど、なんかすごい複雑な顔してる。
どうしたんだろう。


「し、失礼しましたッ!!!!!」

「……?」

「…、あぁ、多分誤解されたね。



だって、はたから見たら、まるで僕が廊下で君とイチャついているように見える体勢じゃない?これ。」



な、


なんですとーッ!!!!?



涙が出てきた。
いや、煙のせいだけども。

なんかこう、心境的に、ね。

泣きたいわけですよ。




だって、だって、

委員長様との関係を、誤解されるなんて───っ!!!!!!!!



真っ赤になるどころか真っ青ですよ。
冗談やめてください。こんな肉食動物(?)委員長様とくっついてるなんて悲しい誤解しないでください。断じて誤解だ。
委員長様は知らんが、あたしはそんな気更々無いのにーっ!!

大体こんな人の隣にいたら、いつ咬み殺されるか不安で夜も眠れませんよバカっ!!!





…とまぁ、声が出ないのいいことに散々委員長様に対して失礼なこと考えてました。


「ねえ君、いま僕に対してすごく失礼なこと考えてない?顔に出てる」


はうっ。
顔に出やすいんだったっけか、あたし。
あれか、感情の大きさのあまり顔に出たんだな、うん、そういうことにしておこう。


委員長様はあたしの上からどいて、立って埃だか粉だかを掃い落としてた。

あたしはというと、スカートやシャツに付いた少しの埃を落としながら
さっきのようなことをグルグル考えていたわけだ。

委員長様が上になってくれたおかげで、ほとんどゴミは付いていなかった。



ふと委員長様を見ると、本人は気づいていないのか、肩と背中にまだ埃が付いていた。
ぱふぱふ、と手で掃ってあげると、

「あ、ついてた?ありがと」

って、珍しくお礼を言われた。



「あの赤ん坊、また会いたいな」

【会えると、いいですね。
あの、雲雀サン、今日は帰ってもいいですか】

「うん、いいよ。コピーありがと」



帰りに委員長様にプリントを手渡されて、
読んでおいて、体育祭の時の仕事について書かれてるから。

といわれた。




その日はまっすぐ家に帰って、今度の体育祭の時の風紀委員の仕事について書かれたプリントを読みふけっていた。
だってたくさんあるんだもの!


次の日、なんだか足が痛いからついでに病院で見てもらったら、




捻挫してた…。


自分、どこまでなんだ、うん?



そういえばリボーンくんやツナくんたち、あのあとどうしたのかな?

怪我、してないかな。


委員長様に捻挫のご報告をしたらば、


「仕方ないね、体育祭のときは仕事しなくていいよ。
君の担当は校舎の見回りだったし、歩かないほうがいいだろう?」


って言われました。

いろいろ迷惑掛けてすみません、委員長様。
でも、なんだか最初に委員会に入れって言われたときより、委員長様が嫌いじゃなくなった。


「ねぇ南、その代わり君は今日一日中応接室(ココ)で資料整理ね。
あんなことで怪我する君が悪いんだよ」


…気がしなくもなくも、ない。




あたしは気付いてなかったけど、
リボーンくんとの出会い、そしてツナくんたちとの関係。
それから、
委員長様。

これらが、あたしには無関係だったマフィアの世界に引きずり込まれる
原因になるなんて、
親友の京子、花にも、
いまは海外出張中の両親にも、
副委員長様でお世話になってる草壁さんにも、


誰にも分からない、

多分、本当の始まりだった。



ちなみに、あのあと見事に誤解した副委員長様は、情報伝達のミスも含めて、
委員長様にきつーく咬み殺されたらしい。

next.


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