素直になれなんてば馬鹿げてる



弐:素直になれなんて馬鹿げてる







ここは、どこだろう。


本当に、自分のいる場所が分からないところまで走ってきてしまった。





ぽつり、ぽつりと雨が降り始める。

私は一人、雨粒が落ちてくる空を見上げて笑った。


風と喧嘩したのなんて、久しぶりだ。


でも、







顔に落ちた雨粒が、線を描くように滑って落ちていく。
私の瞳から滑って落ちた水滴は、雨粒じゃなかった。


だんだん激しくなってくる雨。

もうとうに服も髪もびしょびしょだ。



今ここはどこなんだろう。

私はどこにいるんだろう。



思い出してみれば、私はかなり自分勝手すぎることをした。
なんにも言わないまま、伝えないまま、分かってない、だなんて。

分かるわけもない、か。



視界がぼやけてくる。
体がやけに冷たくて、熱い気がする。


風と、喧嘩。
何年ぶりだろうか?
喧嘩といっても、今回は私の一方的なものだけど。


懐かしいなぁ。
嗚呼、でも滅多に喧嘩なんてしなかった。
風はいつも優しいから。
喧嘩になる前に私を優先するんだ。

私がリボーンについていくと言ったあの日は、珍しく風が物凄く怒った。
それで、絶対についていく、いいや行かせません、なんていって喧嘩になった。
あの時の風はいつもとは別人だったっけかな。





行かせませんよ



名前をわざわざ危険な目に遭わせたくありません


名前に人殺しなどさせたくないです




名前を、遠くにやりたくありません





名前は、強くならなくてもいいんです



私が守ります、昔からそうだったでしょう?



どうして今更、








遠くに行くなんて、










風があまりにも必死に私を止めるものだから、少しだけ意志が揺らいだ。
だけど、私は行くことをやめなかった。

大好きな風の傍から離れるのはとても寂しかったし、不安だったけど、



強くなるためなら、そんな感情、















イタリアでリボーンにたくさん鍛えてもらって、それから任務もこなして、強くなって、
帰ってきて風と手合わせをして、やっぱり風も強くなっていて、なかなか追いつけなくて、


昔からそう、



あたしは風の隣に居たいのに、

居れてない。






べしゃっ。

足に力が入らなくなって、雨でどろどろになった土の道に倒れこんだ。

心なしか、息も荒くなっている。
はぁ、風邪ひいたかも。


このままほっとかれたら、私は死ぬのかな。




死ねる?



死ぬのは怖いなぁ。

風と話せなくなるのも、強くなれなくなるのも、

嫌だなぁ。


嫌だけど、





もう、疲れちゃったよ。




背中しか見えない彼を追い続けるくらいなら、


もう追いつけないのなら、



となりにいられないのなら、






もういい、

もういいよ、



お疲れ様私。

今まで、出来る限りの努力はしたよね。
もう充分、いっぱいいっぱい強くなったよね。

諦めるなだなんて、もう聞き飽きたよ。



おやすみなさい、風。


我が侭な幼馴染みでごめんね、

小さい頃からたくさん迷惑もかけたね、

いつも素直になれなくてごめんね、




でも、本当は、





「―――だいすきだよ…」




届かないと分かっているから、

今だけ、


本当の私を、






静かに目を閉じる。涙が溢れる。


だんだん遠のく意識。

嗚呼、もうすぐ死ぬんだ、死ねるんだ、

風とお別れするんだ、





風は私が死んだら悲しむ?

悲しんでくれる?

また、遠いところに行くなって、


怒ってくれる?


私のこと、忘れないでくれる?





うそでも、わたしのこと、




すきって、いってくれる?







どうして今更、








遠くに行くなんて、





あれは遠くに行かないでって意味?



なんだ、風も素直じゃないのね。




遠回しに言ったんじゃ、


私わかんないよ。







はっきり言ってくれなきゃ、


わかんないよ。



…嗚呼、そうか、








すきってきもちも、



ちゃんといわなきゃ、わからないのか。






私って本当に自分勝手で馬鹿だなぁ。

なんで今更気づくんだろう。



まぁ、風はこんな私のこと、好きにはなってくれないんだろうけど。






いままでそばにいてくれて、ありがとう。













素直な気持ちは、曝け出すのが恥ずかしいから。

馬鹿馬鹿しい願望まで言って、あなたに迷惑かけたくなかったから。


あなたにわたしをすきになってほしい、














それがたったひとつの、












むかしからのわたしのみにくいがんぼうです。






叶えてくれる人はいないのだ、

そう分かっているけれど、





望まずにはいられませんでした。





もう、この願望ともさよなら。





ばいばい、世界。



ばいばい、



風、





























大好きで大切で、大事なことははっきり言ってくれない、


世界中でたった一人、私が心から好きになったその人が、


道端に倒れている私を見つけるのは、約3時間あとのこと。






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