最近幼なじみであるアイチがヴァンガードを始めたことを知ってからはよくカードキャピタルでカードファイトをするようになった。
今日もまたアイチとユズはカードファイトをしていた。
「ブラスター・ブレードでヴァンガードを攻撃します!」
「あっ」
手札はさっきのアイチの攻撃で使いきっていて、ヴァンガードをガードにブラスター・ブレードの攻撃をガード出来ない。
アイチのヴァンガードであるブラスター・ブレードは元からユズのヴァンガードよりも攻撃力が高い。
今まで溜まったダメージは4ポイント。アイチのリアガードからの攻撃は防いだので、この攻撃を受ければユズのターンになり攻撃が出来る。
「トリガーチェック……トリガーアイコンはクリティカルだよ」
「ダメージが2ポイント!?ダメージチェック……ダメか……またアイチに負けちゃったぁ」
クリティカルによって本来1ポイント入ってダメージが5ポイントだったのに、2ポイント入り、ダメージチェックでもダメージを軽減するようなカードは出てこず、ユズの負けになる。
「やっぱりユズちゃんは強いね」
「ううん。アイチの方が強いよ」
アイチとカードファイトを始めてからアイチに勝ったことはない。今回はもうちょっとで勝てるという5ポイントまでダメージを追い込んだのにまた負けてしまった。
「そうそう、アイチの方が強いよ」
「げっ……」
「三和君!」
後ろからの聞き覚えのある声に振り返れば、予想通りに三和が立っている。
思わず嫌そうな声を出してしまったユズとは違って純粋に驚いたような声を上げたアイチの後ろには少し離れて櫂が立っていた。
どうやら気付かない内に二人はカードファイトを見ていたらしい。
「……櫂君とカードファイトしてたんじゃないの?三和君」
手元に視線を戻すとユズはカードを片付けながら、三和に問う。
「終わったから負け犬のカードファイト見てやったのさ」
「自分もまた櫂君に負けたんでしょ!あなたも負け犬じゃない!」
負け犬と呼ばれて声を上げればカウンターの方から声がかかる。
「こらこら、二人ともケンカする程仲がいいとは言うけど……」
「仲良くありません!」
カウンターの中でカードを求める子供の相手をしていた店長の言葉を遮り、店長の方を見れば店長は一瞬怖がるような素振りを見せてカウンターの中に隠れた。
「おお、こわっ」
ふざけたように言う三和を鉈ユズが睨めば、三和は肩をすくめる。
「ユズちゃん……そろそろ帰らなくちゃいけない時間じゃない?」
「あっ……」
「なんだよ、もう帰るのか」
ユズと三和が会話すればいつも険悪な雰囲気になるので、それに慣れたアイチが話題を上手くそらす。
「先に帰るねアイチ。あとあんまり遅くなったらダメよ、最近ここら辺危ないから」
「大丈夫だよ、子供じゃないんだから」
ユズはデッキを鞄の中に直すと、席から立ち上がる。
「そう言えば最近不審者をよく見掛けるらしいですね」
カウンターから出て来た店長があぁと思い出したように言う。
「送ってやろうか、ユズ」
「結構です」
「お、おいっ」
からかうように言う三和にきっぱり断ると、お邪魔しましたと店長に頭を下げて店を出る。
後ろから話し掛けられていたのは無視した。
店を出ればもう夕日は傾いていて、ユズは急ぎ足で帰る。
住宅街に入れば人通りは少なくなって、今の時間帯は誰もいない。
「やっぱりアイチは強くなったなぁ……」
「あの」
急ぎながらも今日のカードファイトを思い出していると、前から歩いてきた男が話し掛けてくる。
「何かよ……」
「コイツに何か用?」
何か用ですか、と聞こうと返事をしようとすれば後ろから聞こえた声がユズの声を遮った。
肩に重みがかかり、振り向けば三和がユズの肩に腕をのせていて、近くにある三和の顔に驚く。
「い、いいえ」
何か用事があって話し掛けてきた筈の男は慌てて否定するとどこかに走り去ってしまう。
「ちょっと!!」
「先生の話ちゃんと聞いてたのかよ、最近出る不審者は夕方頃に一人で歩いている時に話し掛けてくるって言ってただろ」
三和の手を振り払い、振り向けば三和はいつもの笑みを浮かべたような顔ではなく、怒った顔をしている。声も心なしか低い。
確かに三和の言っていることは学校で先生がHRで言っていたことで図星、そして珍しく怒った三和の姿に驚いて何も言い返せないでいると、三和がユズの手を取る。
「家どっち」
「えっ……あっち」
三和の剣幕に素直に質問に答えると、三和はユズの言った方に歩き出す。
ユズは繋いだ手によって引っ張られながら三和について行く。
歩幅の違いから早歩きになるユズに気付いた三和がスピードを落とす。いつもは必要以上に話し掛けてくる三和は黙ったままだ。それが居心地悪い。
何度か曲がり角を曲がると家に着く。
「あ、ここが家」
「そうか」
家を指差せば、家の前で三和はユズの手を離す。
「早く寝ろよ」
「えっ……うん」
肩を押されて家の敷地内の中に入ると、三和は一言声を掛けると来た道を戻っていく。
どうやら三和はわざわざ店から出たユズを追い掛けてきて、送ってきてくれたらしい。
それに家に入ってから気付いた。
慌てて家から出ても三和はもう見つからなかった。
「おはよう」
「おはよう」
次の日の学校でユズが学校のグラウンドを歩いていると、見慣れた背中が見えた。
櫂と歩いている三和の横顔はいつもと同じように見えた。
昨日のお礼を言わないといけない。考えてみればいつも三和から話し掛けてくるので、ユズから話し掛けたことはなかった。
何故かバクバクと激しく音を立てる心臓を気にしないように、三和の所に走る。
「三和君!」
「ユズ?」
声を掛ければ三和と櫂が振り返る。
「昨日は……ありがとう」
「へへっ。どう致しまして」
お礼を言えば三和は一瞬驚いたような顔をして、それから嬉しそうに笑う。
「それと……おはよう。櫂君もおはよう」
「おはよう!」
「あぁ」
始めて三和に自分から挨拶して、二人の所から走り去る。
「……なんで三和君に話し掛けるだけでこんなに緊張するの」
じゃないと心臓が破裂しそうだった。
奇跡は始まっていたらしい
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お題:)Aコース様
思ったよりも長くなった。
110129 緋色來知
12/08/12 加筆修正
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