相変わらずチンプンカンプンな授業が終わって、ユズがカードキャピタルに向かっていると肩を叩かれた。

一瞬ビクッと肩を跳ねさせてから振り向けば会いたくない人が後ろに居た。

「よっ」
「げっ……三和君……」

思わず出てしまった声をもう隠そうとも思わず、後ろに居た三和を嫌そうな顔で見る。

「“げっ”て……随分な挨拶だな、ユズ」
「勝手に名前で呼ばないで」
「他の奴には呼ばせてんじゃん」
「あなたは別!」

きつめに言うとユズは三和を無視して歩き始める。
一瞬その剣幕に驚いたような顔をした三和は駆け足でユズに追い付き、隣を歩きだす。

隣を歩かれているのが嫌でユズが早歩きをし始めるが、むしろそのスピードがちょうどいいのか三和はユズの隣を普通に歩いている。

「また行くのか、あの店」
「あなたには関係ないでしょ」
「デッキは調整したのか?グレード2のカードばっかじゃ、グレード3ばっかのアイツのデッキには勝ちにくいぞ」
「余計なお世話!」

三和の意見は最もだと思っても、学校でもたまに会うカードキャピタルでもいつもユズをからかうようなことを言う三和の言葉は受け入れがたかった。
しかも他の女子には言わないのに、ユズだけには酷いことを言ったりするので尚更だった。ユズには三和に酷いことをした覚えはないし、クラスメートと言うだけで他に接点はないからどうしてユズだけそんな態度を取られるかもサッパリだった。
それに三和は見た目がいいし、他の女子には優しいので羨ましがられたり、前は仲がいいと勝手に勘違いされて女子の先輩に呼び出されたり、本当に三和と居ると良いことがないのだ。

この間カードキャピタルで一番強いという中学生に負けてからは、中学生に負けただの散々言われて気が滅入る。
デッキを調整していると、三和を思い出して、あんなに楽しかったヴァンガードが楽しくなくなる。勝ってもあれはどうだっただの口を出されるし、負けたら負け犬とか呼ばれるし。
なるべく絡まれないようにしたいけれど、クラスメートなのでなかなかそういうわけにもいかない。あんまり友達にヴァンガードをやっている子はいないから、カードファイトが出来るカードキャピタルは貴重な場所なのに三和と会うから行きたくなくなってしまう。

会ってしまった三和に今日もまた色々言われるのかと思うと溜め息が出てしまう。

暗くなってしまった気持ちを入れ替えるように顔を上げると、隣に居たはずの三和が目の前に回りこんできた。

「ほらよ」
「え?」

目の前で立ち止まった三和はいきなりカードを差し出してくる。反射で受け取ってしまったユズがそのカードを見れば、ユズのデッキに入れたかったけれどなかなか当たらなかったレアカードだった。

「このカード入れれば負け犬のユズのデッキも強くなるんじゃねーの?」
「い、いいよ!」
「俺は使わないから貰っとけ」

喉から手が出る程欲しかったカードだけどただで貰うのは申し訳ないし、なにより三和には貰いたくなかった。

カードを返そうと三和に差し出すと、三和は片手を横にひらひらと振って拒否の意を表す。
確かに何度か見た、三和のデッキには入れれないカードだった。

「また負けんなよ、ユズ」
「ちょっと!」

ユズに背を向けると三和はユズを置いて行ってしまう。追いかけようとしたけれど、夕方の人が多い時間帯であっという間に人混みに紛れて三和は見えなくなる。

「……なんなのよ」

カードを両手で持って、ユズは呟く。酷いことを言ったと思えば、カードをくれたり、三和がサッパリ解らない。

とりあえずカードをしまうとユズはカードキャピタルに歩き出す。

なんだかモヤモヤとする感情にも、三和の気持ちにもユズは解らないままでいた。


憂鬱の根っこ
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お題:)sappy様
初三和夢!
時間軸は本編ちょっと前ですかね。
110129 緋色來知
12/08/12 名前変換ミスを修正しました。

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