考え事をしている時と、無心になりたい時は気が付いたらリフティングをしていることが多い。というかリフティングをしている。同じことをしているのに脳内ではその時によって違うことをしている。ちょっとだけ不思議だ。


今日もまた雷門のよく練習する河川敷で放課後残って夕日の方を向いてリフティング。
今回は考えごとをしているから、ボールは同じ軌道を行ったり来たり。

そして今日の議題は、そこらに放置したカバンの中にあるテストだ。そう悲惨な点数を叩き出した数学のテスト。

「帰りたくない」
「家出か?」
「鬼道」

独り言を返されて振り返れば河川敷の近くの道路から私を見下ろしている、同じく制服姿の鬼道。部活中みたいにゴーグルはしているのに、マントはしてない。
しかし電車通いで遠いくせに、いいのか遅くまで残っていて…。

河川敷の上から降りてくると、私が土手の真ん中辺りに放置したカバンの隣に鬼道は座る。別に催促しているわけでもなく、ただ私の遥か後ろの夕日を見つめているだけなのに何となく座らなければいけない気がして、大人しくリフティングを止めて鬼道の隣に座る。座った後に制服のスカートを汚れるかもしれない と思ったけど後の祭だ。

何時もはいとこの守よりは少ないけど、結構喋る方の私が喋らないと、鬼道と一緒だと無言の時間が始まるみたいだ。
つまりは今までチームメートとして数え切れない程会話してきたけどほとんど自分が喋っていたのかもしれないということだ。
あ、やっぱもうちょっと静かな女の子になろうかな。

でも不思議とこの無言の時間が気まずいものではなくて、むしろどうやって言い訳しようかと考えて少しオーバーヒート気味だった私の頭を冷やしてくれている。
そしてそれを促すように穏やかな夕方の風が吹いた。私のポニーテールと赤い髪紐、そして鬼道のポニーテールと言うのかあの一つに纏めたドレッドヘアを揺らす。

「それで、何で家に帰りたくないんだ」

ずっと地平線に沈みかけた夕日を見ていた鬼道が口を開く。
どうやらお悩み相談教室を開いてくれるらしい。

「…今日テスト返ってきたでしょ?」
「あぁ」
「そのテストの点数が悪かったから帰りたくないの」

鬼道の厚意を受けることにして、さっきから頭の中を占めていることを話す。

「どんくらいだった?」
「学年平均よりも下だった。ちなみに鬼道は?」
「全部満点だ 。帝国にいた頃にやった所だからな」

お互いを見ずに夕日を見ながらの相談教室をやってたけど、鬼道の言葉で相談するんじゃなかったと思った。

「もう鬼道なんかサッカーボールになっちゃえよ」
「いきなり脈絡が解らん」
「今スッゴく鬼道を蹴りたいから」

鬼道が私の言葉に私の方に視線を向けたのが解った。でも私は夕日を見たまま。

「今回のテストは平均点が高かったと先生が言ってただろう」
「完璧に上げたのは鬼道だろ」

きっとフォローしたつもりなんだと思うけど、全くフォローになってないぞ。
鬼道の方を向けば鬼道は少し困った顔をしてた。
別にテストの点数が悪かったのは鬼道のせいじゃない。
「冗談。点数が悪かったのは自分のせいってぐらい解るよ」
「でも何故だ。他の奴に教えられるくらい頭いいだろう?」
「テストの時にさ、問題集の提出があったでしょ」

そう言うと鬼道は少し間が開いてあぁ、と返事を返してきた。
…きっと大して問題集に苦戦しなかったんだろう。他の人に問題集、と口に出せば多少差はあるとはいえみんな微妙な顔をするか、青ざめるのに。

「あれの範囲間違えてて気付いたのが前日の夜で徹夜してやっ たら、ついテスト中に寝ちゃたの」
「それでか…」
「途中で寝なかったら平均点絶対に越えてた」

出来そうな問題から解いていったのは良かったけど、大問をやる前に眠気がきてしまって後半の辺りはほとんど真っ白。しかも今日の解説の時間に自分で解いてみたら案外簡単に解けた。自力で解けなかったら、起きていても解けなかったから一緒じゃん、となるけど自力で解けたとなると…。切ない限りだ。

「悔しいなー」
「確かに寝なかったらと思うと悔しいな」
「そーそー私のジャンボパフェが…」
「ジャンボパフェ?」

鬼道が首を捻る。鬼道も私と同じく転校生で、しかもスイーツにあまり興味を持たない男子なら知らなくても当たり前かもしれない。

「雷雷軒の近くの穴場のケーキ屋さんの5人前ぐらいあるパフェ。平均点以上だったら買ってあげるって言われてたのに…」
「そんな約束をしてるのか」
「良くしない?テストで点数良かったらお小遣いアップとか、体育祭で一番だったら新しいゲーム買ってもらうとか」
「…テストは満点が当たり前だからな」

鬼道はまた夕日を見ていた。
そういえば鬼道は鬼道財閥に引き取られてたんだっけ?それならそうか もしれない。

そのまま上半身を倒して、土手に寝っ転がる。いつの間にか日はほとんど沈みかけていた。

「よし!!いくぞ鬼道」
「…?」

私の言葉に振り向いた鬼道は頭にハテナマークを浮かべている。

「雷雷軒行くの。鬼道の満点祝いに私が好きなの奢るよ」
「いや、別に…」
「お腹減ってるでしょ?遠慮するなって。さぁ行こう」

反動をつけて立ち上がって、戸惑った顔をしたままの鬼道を急かす。鬼道は表情を崩して、少しだけ笑うと立ち上がる。スカートの土を払ってカバンを持って、土手を駆け上がる。その後ろを鬼道が歩いてくる。土手を上がってきた鬼道が私を追い越して、雷雷軒の方に歩いていくのを見て私は駆け足で隣に並んだ。



なんでもない放課後
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一期ら辺。一年前に書いた奴を今更up
10/01/20 緋色來知



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