PDAに通信が入る。

その時十代は一人デッキを組んでいた。
いつもなら楽しそうにデッキを組む十代は眉間にシワを寄せて、さっきから同じカードを行ったり来たりさせて全くデッキを広げた意味はなかった。
本人にはずっとそんな顔でデッキを見ていて、珍しく不機嫌オーラを出していたので賢明な翔と剣山の二人はとっととレッド寮から逃げ出し無害な三沢の所に行ったのである。

最初は鳴ったPDAに全く気付いていなかったが、この間トメさんに貰ったパックに入っていたトラップカードを入れるか入れないかで悩んで、やっぱり入れようと床に並べたデッキの中の一枚と入れ替えた所でやっと気がついた。

普段ならすぐにとるのだが、何分機嫌が悪かった。無視を決め込んで床に放置したが、ずっと鳴り続けるそれに痺れを切らし、鳶色の髪の毛をかきむしり、通話ボタンを押した。

「十代…?」
「今デッキの調せ…ま、万丈目?」

小さな画面に映っていたのは、恋人の姿で、十代を不機嫌にさせている人物でもあった。

画面越しに見える万丈目の顔は赤く、潤んだ瞳がまだ体調が悪いことを表していた。

「十代…」
「なんだよ。俺の顔見てたら余計に悪くなるんじゃないのかよ」
「ッ……」

かすれた声がもう一度十代の名前を呼び、さらに何か言おうとした所に十代は割り込んで嫌みを言う。そうすれば万丈目はハッといった顔をして口を噤む。

十代はPDAから、万丈目からそっぽを向いて、そんな十代を万丈目はPDA越しに見つめる。

ことの始まりは、昨日の放課後にまで遡る。
昨日は昼過ぎまでカラッとした晴れだったのに午後からの授業が始まった頃から何処からか雲が空を覆い始めた。天気予報じゃ雨とは言っていなかったから、生徒達がチラチラ外を気にしているうちに授業は終わり、用事のない生徒達は我先にと帰っていった。その時帰れば良かったが、授業中に夢の世界だった十代とそれを必死に起こそうとした万丈目はとばっちりを受けて二人で教材を教材室に戻しに行って出遅れた。
二人が昇降口を出た頃にはもう雲が空を覆い尽くし、ゴロゴロと嫌な音を立てていた。主に万丈目が悪態を尽きながら二人で帰路についたが、3つある寮の中で一番遠い所にあるレッド寮。半分程行った所でポツリポツリと雨が降り始め、それはすぐにバケツをひっくり返したような大雨になってしまった。
制服を傘代わりにレッド寮について、すぐに万丈目は自分の部屋の風呂に十代を突っ込んだ。そのままでいると部屋が水浸しになるだろうが!っと言う一言に十代は先に万丈目が入れよ、という言葉を飲み込み、熱いシャワーを浴びた。早めに出たのだが、その頃には万丈目の体は冷え切っていて、案の定次の日である今日風邪を引いて高熱を出してベッドに沈んでいる。
こういった経緯があるから、十代が万丈目の看病を申し出たのだがあっさり他の者に却下されて、万丈目の貴様がいたら悪化する、という言葉と一緒に万丈目ルームから文字通り叩き出されてしまった。

あの言葉の裏に自分に風邪を移したくないという思いがあったのもちゃんと解っているが、明日香は看病のためとはいえ万丈目ルームを自由に出入りしていて、それに弟分二人が恐らくフォローのつもりで言った、アニキに看病は出来ないのが解ってるから追い出したんスよとか、万丈目先輩も静かに寝たかったんだドンという言葉で完全にへそを曲げてしまって冒頭の様子に繋がる。

病人相手にこんな言葉を掛けるのも、こんな態度をとるのもよくないとは解っていたが頭の中とは裏腹に勝手に身体が動いた。

「…さっきのは俺が悪かった」

しばらく無言の状態が続いて、万丈目が口を開いた。

何時もならめったに聞けない謝罪の言葉だったが、今回の十代はそれでは腹の虫がおさまらない程怒っていた。

「十代…寂しい…」

腹の虫がおさまらない程怒っていた…ハズだった。
PDAをすぐさま切ると制服に突っ込んだ。床に並んだデッキを慌ててかき集めるとホルダーに押し込むように入れた。こういう時に限って履きづらいブーツを履いて、飛び出すように部屋を出た。大きな音を立てながら階段を駆け下りる。

逢ったらとりあえずキスをしよう、そんで一緒のベッドに入って寝よう、と十代は頭の中でシュミレートして、万丈目の待つ部屋のドアを壊さんばかりの勢いで開けた。



会いたくなる言葉
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10/04/07 緋色来知


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