※ザジが女の子。



(なんでこうなったんだろ…)

元はと言えば、ジギーが誘った場所が悪かった。
ロビーで、配達から久しぶりに帰ってきたジギーに出会ったザジはその場でサーカスに誘われた。

ジギーの誘いに二つ返事で答えたあと、ジギーと別れたザジを待っていたのは、たまたま郵便館に来ていたシルベットと副館長のアリアだった。

普段から男の子のような口調に、服と、その他キリのないくらい女の子らしくないと指摘されてきたザジだったが、それをどうにかこうにか、ザジより酷いニッチという存在もあってかわしてきた。
けれども諦めていなかったのか、シルベットとアリアはデートぐらい女の子らしくしないと!とか、ジギーもきっと喜ぶとか、巧みにザジを口車に乗せて、女の子の格好をさせたのだ。

最初はジギーが喜んでくれるならと、思って覚悟を決めたザジだったが、段々鏡の中の自分が変わっていくのを見て、急に不安になってしまった。
普段は男の子みたいな女が急に女の子らしくするなんて変じゃないのかとか。それに、オッサンキラーと呼ばれるジギーだがジギーの魅力にハマるのはオッサンだけじゃなくて、女の子も入る。しかも女の子というよりはジギーと同じくらいの女の人が多い。今までは男の子と思われることが多くて良かったが、女の子としてジギーの隣に立ったとき自分は見劣りしてしまうのではないか、そんなことがグルクル回って。

やっぱりいつもの格好がいいと言えば、シルベットが笑って、でも着替えてたら時間に間に合いませんよ、そう告げた。

仕方無く、ザジはスエード家から二人に見送られて、ジギーと約束した場所に向かった。

護衛として連れて行けと言われた、ザジの相棒であるヴァシュカは脅されたのか、買収されたのか、シルベットとアリアの言葉に頭が取れるのではないかと言うくらい頷いていた。

どうして中央〈セントラル〉に護衛がいるのか、さっぱりわからなかったが、やはり普段一緒にいるヴァシュカがそばに居てくれると少しだけ安心した。

待ち合わせした女帝の像の前で、ジギーはすでに待っていた。

イケメンは何をしても様になるのか、立っているだけで、ジギーは近くを歩く女性達の視線を集めていた。

いつも見慣れたBEE、とくに速達専用の制服ではなく、私服姿に見とれていると、ヴァシュカが隣で鳴いた。

ゴギャアと言うヴァシュカの特徴的な鳴き声に、ジギーがザジ達の方を向いて目を見張った。
そのままストップしてしまったジギーに、ザジは逃げる訳にもいかず、ヴァシュカがザジの背中の方に回って後ろから押してくるのもあって、ザジはジギーの方へ歩いて行く。

ジギーの目の前までやって来ても、ジギーはザジを凝視したままだった。

ザジは不安で恥ずかしいという気持ちを必死に耐えるようにスカートを皺ができてしまうくらい握った。

恥ずかしくて声も出せない。
口の中がカラカラで、一度開いた口を閉じてしまわなければいけないくらいに。

それでも隣にいるヴァシュカが何よりも証拠になるのだろう。
きっと名乗らなくてもジギーは目の前の少女が誰かわかっているはずだ。

たっぷり10秒ほど経ってから、やっとジギーは口を開く。

「ザジか…?」

ジギーの言葉に真っ赤になりながら少女ーーザジが頷けば、ジギーは表情を柔らかくする。

「…どこかのお姫様かと思った」

ジギーの言うことはよくわからないことが多かった。だけど段々何となくだけど意味がわかるぐらいにはなった。
なのに今日はまっすぐな言葉を使うから、何となくじゃない、言いたいことが全部理解出来た。
これ以上真っ赤にならないのではないかというくらい真っ赤になって、それを見てジギーは笑みを浮かべる。

「行こう」

差し出されたザジより一回りも二回りも大きな手に、汗をかいた手をスカートの裾で拭ってから重ねれば、ジギーは包みこむように握る。

慣れない女物のヒールのある靴に戸惑うザジを察して、ジギーが歩くスピードを合わせる。

(お姫様、そんな言葉が出てくるくらいだから、似合ってないことはないよな…)

ザジの心の中の葛藤も知らず、ジギーは目的地に向かっていく。

悶々と考えていると視線を感じてジギーを見上げれば、ジギーは「似合ってる」そう呟いた。

また真っ赤になった顔を隠すようにうつむいてから、ザジはジギーの手を握る手に少しだけ力を込めた。


チョコレートより甘い恋を
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2012/02/16緋色来知


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