こっちです、と、楽しそうにジギーよりも少し先を歩き、たまにこっちだと方向を教えてくれる恋人に、ジギーはさっき抱き締めて十分に回復した心がもっと回復していくのを感じた。
きっとこの小さな少年は自分専用のこころの回復機で、この子が居ればきっとヨダカの最南端だろうが、どこまでだろうが鉄の馬を走らせられる気がした。

一、二歩前をスキップするように歩く姿も可愛らしいが、目の前の恋人を捕まえたくなって、またこっちを向いた途端距離を詰めて、振り返った彼の制服の裾を掴んだ。

「ジ、ジギーさん!?」
「こんなに暗いんだ、見えないだろ」
「そ、そーですけど」

止まった恋人に、裾から一瞬手を離して、自分の手で相手の手を絡めとるように握った。

隣に並んで、次はどっちに行けばいいんだ、と聞けば、真っ赤な顔を隠すように支給された帽子のつばを下げて顔を隠しながらあっちですと指を指した。耳まで真っ赤になっているから顔を隠しても無駄なのだけれど、余裕がないです、と主張しているようで可愛らしかった。そういうジギーも恋人と手を繋ぐなんてことはあまりしたことがないから、少しだけ心拍数が上がっている。きっとよく見れば少しだけ赤くなった自分の顔が解るのだけれど、ユウサリの空はいつでも黄昏色だ。黄昏と、ザジと同じように帽子のつばが手伝って仄かに赤い顔を隠してもくれる。
恋人は自分でいっぱいいっぱいなのだから、ジギーの表情の変化には気付かない。

真っ赤な恋人が案内する店で食料を調達してから、二人で慣れた恋人の家に帰る。
恋人が得意なスープを作るのだと、そう言ってキッチンに立つ。またジギーは恋人がキッチンに立つ姿を椅子に座って、テーブルに頬杖をつきながら見つめる。
それは昔から憧れた、家の様子で。

漂ってくる美味しそうな匂いに、心待ちにしていると、何故か恋人の姿が霞んでくる。
思った以上に疲れているのだろうと、必死に目を瞬かせるが、眠気には勝てず、ジギーは夢の中に旅立った。







「ジギーさん?出来ましたよ…って、寝てる」

ザジはスープの味を確認してから振り替えれば、ジギーは頬杖をついたまま、目を閉じて眠っていた。
この前、ジギーが帰ってきたときから四十日あまり、今回はやたらヨダカや危険な鎧虫の出てくるポイントを走ってきたというから眠ってしまうのも仕方無いだろう。

火を止めると、ソファーに置いていた毛布をジギーにかけようと持ってくる。
本当はベッドに連れて行きたいが、残念ながら、ザジではジギーが起きないように、ジギーをベッドに運ぶことは出来ない。
毛布を彼にかければ、ジギーは少しだけ身動ぎしてから顔を上げた。

「…ザジ?」
「すいません、起こして…」
「いいや…出来たのか?」
「ええ。でも、ジギーさんは寝た方が…」
「食べる」

ムクリと起き上がるジギーを見て、ザジは苦笑すると、毛布をソファーに戻して、火を止めたばかりの鍋からスープを注ぐ。

シナーズで買ったパンとサラダを添えれば、夕食の出来上がりだ。
まだ眠そうなジギーのいるテーブルに出すと、二人で手を合わせてから夕食。


誰かがいる食卓、誰かが食べてくれる自分の料理。
それが凄く嬉しくて、ザジが笑みを浮かべれば、ザジの手が止まっていることに気付いたジギーが首を傾げる。

「どうしたんだ、ザジ」
「何でもないです!それよりスープどうですか?」
「うまい」
「良かった!」

ジギーは笑みを浮かべて、美味しいと言ってくれる。
それにザジは嬉しくなる。
誰かが自分の料理を食べてくれて、美味しいと言ってくれるのは幸せだ。
夕食が終わって、片付けをして、それから湯を浴びて、二人同じベッドに入る。
ベッドに入る頃にはジギーは半分夢の世界だったが、何時ものようにザジに腕枕をしてくれて、二人夢の世界に旅立った。



願わくば同じ夢が見れますように
++++++++++++++
2012/02/11 緋色来知


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -