※大学時代



「ねぇ、正チャン」
「なんですか?」
「まだ終わらないの?」
「まだ終わりません」

一体何回同じやり取りを繰り返せばいいのか。

溜め息や苛立ちを通り越して呆れてきた正一が振り返れば、白蘭は正一のベッドの上で、正一が白蘭対策に買ってきたマシュマロをモグモグ食べていた。

マシュマロ食べている片手間に読んでいる本は、最近発表された話題作らしいが、白蘭が夢中になるようなものではなかったらしい。
話題作と言っても、ラブストーリーだったので正一は興味は全くなかったが、日本の少女マンガにハマり、恋愛物が好きな白蘭にしては珍しい反応だった。

パソコンで書きかけの論文を保存して、回転する椅子ごと白蘭の方を向くと、眉を寄せたままの白蘭に問いかける。

「…面白くないんですか、その本」
「うん。正チャンの論文くらい面白くないよ」
「悪かったですね!」

おそらく事実しか書かない文章が面白くないのだと言われているのだと思うが、まるでやっている研究自体が否定されているような気持ちになる。

しかもそれを正一がそう受け取るとわかっていて言うのだから、白蘭という男はタチが悪い。

しかも今回は正一の気を完全にこっちに持ってくるのが目的だったらしく、正一が怒ったのを見て白蘭は笑みを浮かべる。

そんな白蘭に肩を落とし、集中も乱されたし、まだ締め切りまで余裕があることもあり、正一は溜め息を吐くと白蘭の座るベッドまで歩み寄ると隣に腰を下ろした。

「…確か悲恋物でしたっけ?」
「うん。誤解が重なってお互いに違う人と結婚して、ジジババになってから再会するって奴」

ちょうどさっき話し掛けてきたときには読み終わっていたらしく、正一が覗けば白蘭はあとがきを読んでいた。

ページを閉じ、白蘭はベッドの近くのサイドテーブルに本を投げるように置くと、正一の方を向く。
その表情はどこか寂しそうで、正一は首を傾げる。

「良かったじゃないですか、再会したんでしょ、二人」
「僕は嫌だよ」
「えっ」

白蘭に抱き締められて、正一は一瞬硬直してから、おずおずと白蘭の背に手を回す。

白蘭とそういう関係になって、まだ日は浅い。
元々スキンシップという名のセクハラはひどかったが、さらに上がった密着度に正一はオーバーヒートすることもあるくらいだ。

「僕は正チャンと誤解したまま別れて、別の人と結婚して、ジジババになってわかりあうなんて嫌だよ」
「…本はフィクションなんですよ」
「それでも嫌なんだよ」

どうやら白蘭は本の中の二人を、正一と白蘭に当てはめてしまったらしい。

誰もがこんな恋をしたいわけじゃなくて、ただ本の中のフィクションだから楽しめるのに、自分達に当てはめてしまったら嫌に決まっている。

「それでも嫌なんだよ…」

まるで駄々っ子のように嫌だと繰り返す白蘭に正一は笑みをこぼす。

前までならきっと駄々こねないでください!と言っていただろうけれど、今は違う。
こみ上げてくる愛しさに正一は胸がいっぱいになって、白蘭の頭を撫でる。

「だったら僕が誤解したらすぐに白蘭サンがといてくださいね」
「…うん!!」

正一の言葉に白蘭は顔を上げた。正一の顔を見て大きく頷くと、正一顔を自分の胸に押し付けた。

「正チャン大好き!」
「…僕もですよ」

力一杯抱き締められて、いい加減に力加減を覚えて欲しいと思いながらも、その腕の強さが正一をどれだけ好きか表しているようで。

恥ずかしがって滅多に返さない愛の言葉に、消えてしまいそうなくらい小さな声で返事した。




バッドエンドじゃ終われない
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11/12/27 緋色来知


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