――雪男はかっこいい。

雪男と二卵生の双子の姉である燐から見たって、雪男はかっこいい。

180もある身長に、新入生の挨拶を任されるくらいに頭が良くってしかも最年少で祓魔師になった上に、祓魔塾では教師だ。
雪男の任務によく勝手について行くけど、どこでも雪男は一目おかれている。

キレると怖いけれど、あの普段の大人っぽい雰囲気に、優しげな笑みに女の子達は夢中らしい。

女の子の話題に上がるのも、塾で奥村先生は凄いと言われるのも、姉としては鼻が高い。でも雪男の恋人としては許せなかった。




「……どうしたの、姉さん」
「何が?」
「いや、姉さんの機嫌が悪いような気がしたから」

躊躇いがちに、燐を見てくる雪男に、燐は顔を雪男の方に向けると、雪男は驚いたような顔をする。

いつもなら呆れたように言う雪男が、気を使っているような気がして、燐は怒ってなんかないのに、とムッとしてしまう。
ただ、ちょっぴり気に食わないだけなのに。

「何かあったの?」
「ちょっとな」
「どうしたの?」

つい漏れてしまった本音に、雪男がイスから立って、燐の傍までやってくる。

昔はおんなじくらいだった、むしろ燐の方がちょっぴりだけ大きかったのに、にょきにょき伸びた背は燐よりもずっとずっと高く、いくら男女の差があったとしても悔しくてたまらない。

「僕に出来ることならなんでもするよ」

そんな高い背をかがめて、雪男は燐の顔を覗き込む。

いつもとよっぽど燐の姿が違うのか、やたら親身になって聞いてくる雪男に、燐は雪男の方を身体ごと向いた。

「じゃあ、お前縮め」
「え?」
「そんで頭悪くなれ。祓魔師としてもダメダメになって格好悪くなれ」
「……いきなり何言うのさ」
「メガネは……メガネは言ってなかったからそのままだな」

メガネはいいとして、女の子達が全部カッコいいというところがなくなってしまえばいい。

戸惑う雪男にたたみかけるように続ける。

「とにかくカッコ悪くなれ」
「嫌だよ」
「はっ?」

戸惑っていたのに、ため息を吐くと、メガネをくいっと上げて、雪男は身体を起こす。
なんでもするんじゃなかったのかよ、と燐が言おうとするより先に、雪男は目尻を下げて、優しい顔をして口を開いた。

「だって、そんなんじゃ姉さんに好きでいてもらえないだろ?」
「!!」
「身長は今くらいが姉さんと理想の身長差だし、頭が良かったら姉さん誉めてくれるし、祓魔師として強くなくちゃ姉さんを守れない」

至極当然のように言う雪男の言葉にドキドキする。
燐のことを第一に考えてくれてるんだと分かる言葉の数々に燐の顔がだんだん赤くなってくる。

「だから嫌」
「ふ、ふーん」

嬉しすぎて真っ赤な顔を隠したくて、とりあえずそっぽを向いて、素っ気なく返事をする。
すると雪男は姉さん、耳まで真っ赤だよ、と指摘してくる。
慌てて手で耳を隠す燐に雪男は顔を近付ける。

「雪男!」

勝呂からもらったピンのお陰で出ているオデコに、触れるだけのキスをしてきた雪男に燐は慌てて顔を上げる。

雪男といえば、教師の時とは違う、燐にだけ見せる優しい笑みを浮かべる。

「好きだよ、姉さん」

これ以上赤くならないだろうと思ってしまうくらい赤い燐に、今度は額ではなく唇に雪男は自分のそれを重ねた。



その笑顔は反則だから
(で、どうしてこんなこと言ったの?)
(お、女の子達が雪男のことカッコいいとか言うから)
(馬鹿だなぁ。僕には姉さんだけなのに)
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不機嫌マイハニー様に提出しました。
笑顔より言動の方が反則なような気がしないこともないですが…。
とにかく、素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!
11/05/03 緋色来知

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