「雪男」
「なんだい、兄さん」
塾が終わり自室で雪男が勉強していると、後ろから燐が抱きついてくる。
せわしなくノートの上を走り回るシャーペンの手を止めることなく、雪男は兄に訊ねる。
「今日は何の日か知ってるか?」
「さぁ」
そっけなく答えるけれど、これくらいでめげる燐ではない。
弟が知らないと知ると、燐はさもえらそうに口を開く。
「5月9日は告白の日なんだってさ!」
「ふーん、なら兄さんから僕に好きって言ってくれるの?」
「なっ」
「僕、兄さんから好きって言われたことないなぁ」
雪男を抱き締めていた燐の手が離れたので、振り返れば顔を真っ赤にした燐がいた。
さっきまでえらそうにしていた姿はどこにいったのか、口から言葉になっていない声を出す燐に、雪男は微笑ましそうに目を細める。
恥ずかしがり屋な燐が、雪男のことを好きと言ってくれるまではまだまだ時間が掛かるだろう。
「まあ言わなくても兄さんが僕を好きなことは知ってるけどね」
「バッ……じ、自意識過剰じゃねーの!!」
「よく兄さんそんな言葉知ってたね」
「うるさい!馬鹿にすんな、このメガネ!」
「だからメガネは悪口じゃな……「でも……そんなところが……すきなんだよ」えっ?」
聞こえた言葉に雪男は耳を疑う。
さらに顔を赤くした燐はどこか違うところを見ている。
数秒してから理解した雪男はまるで沸騰したみたいに顔を真っ赤にさせて、そんな顔を見られたくなくて顔を伏せた。
告白の日
(……こんなの反則だ)
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11/05/10 緋色来知
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