||| plus alpha

「流石におかしいと思ったんだよ。」

木漏れ日が少々荒が目立つ窓の隙間から差し込んでいる。とろとろと蕩けるような微睡みの中、ぎゅうぎゅうとこちらの胸にくっついて、そのまま眠り込んでしまった男の仮面をそっと外した。白い肌と、暗がりではぼんやりと光りそうな青白いフェイスペイント、人間離れした造形の顔、無駄な肉が一切ついてないすらりとした身体、まるで芸術品のような完成された美しい男が俺の腕の中ですやすやと眠りこけている。

「まさか、夫婦にされちまうなんてなあ……」

薬指で輝く小さな青い宝石のリングを光に透かして、小さく笑う。同僚に手ひどい裏切りに遭い、職も失って、自暴自棄になりながら森に迷い込んだ俺を保護したのは他でもない男だった。

最初はきっと困っている人間を放ってはおけない性分故、そんな行動に出たのだと思う。こんな人里離れた場所で一人隠れるように住んでいる男だが、お人好しで、懐に入れた人間にはどこまでも甘いことを身をもって実感した。だから、魔物に襲われて死にかけていた俺を救ったイライに下心なんてなかったはずだ。

「ほんと……かわいい。」

俺がこの森から抜けることができないよう俺の両手にはバングルが巻かれている。一歩でも森の外に出ようとしたら手首を切り落とされるみたいな痛みが走って、イライの能力だかその良く視える目でどこにいても居場所が見つかる。そんなことをしてまで、こんなつまらない男を繋ぎとめようとするイライが愛おしくて、俺は時折試し行動みたいに腕輪の付いた腕を森の結界の外に突き出している。その度、狂ったように泣き叫んで、癇癪を起すイライは本当に……かわいくて、情けなくて、どんどん深みに嵌っていくのを自分でも感じる。

こんなもので縛らなくても、お前が一言「離れないで」と言えばいいことなのに。

透き通るみたいな白い髪の毛をそっと撫でて、晒された項に唇を寄せた。甘いくらくらするような匂いに無性に腹が減る。食い破るなんて野暮なことはしないが味見くらいなら許されるだろうか。

俺が人間の女だったならそれこそ既成事実でも作って無理やり婚姻の儀を上げることだってできただろうに、どうしてなのかイライは自身がその立場を選び、あまつさえ、俺と番関係を結んだ。夜行梟の番とはどちらかが死ぬまで一生破ることができないものだと最近まで知らなかったが。

どこまでも不器用で、根本も人間とは違う生き物に好かれて、嫌悪感があるかと言われたら否だ。人間なんて簡単に心変わりするし彼らに比べたら短命の種族であるにもかかわらず、共になることを選んだ夜行梟の男がただただ愛おしかった。

Oct 13, 2021 05:07
browser-back please.

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -