俺を好きになったらいいじゃない。 なにがそんなに嫌なの。 ねえ、君を好きになったらだめなの? 愛してあげるから傍においでよ。 何度も何度も何度も繰り返された愛の言葉に、手を伸ばしてしまったこと。 大好きだよ。すごく。 誰よりも愛してる。 偽りのその言葉に、頷いてしまったこと。 君を縛り付けて、一生俺だけのものにしてしまいたい。 君だけだよ、シズちゃん。 堕ちてしまったこと。 もう戻れなくなってしまったこと。 愛してしまっていたこと。 「ねえ、シズちゃん……。俺のこと好き?」 「……好きじゃ、ない」 「ひどいなあ。俺はこんなにもシズちゃんが大好きなのに」 床に座る俺をソファに座るそいつが後ろから抱きしめる。 肩に乗る腕。胸元に回される手。 全てが愛おしいのに、そいつの言葉は嘘だらけ。 「愛してるのになあ、シズちゃん」 嘘しか吐かない口。 嘘しか語らない声。 嘘しか考えない脳。 全部全部愛おしいのに、そいつは俺を愛さない。 「嘘、ばっかり」 ぽつりと呟いた声は、賑やかなテレビの音に掻き消された。 誰かに愛してほしい、それだけだった ほしい言葉を吐いてくれた愛しい人は皮肉にも大嫌いだったあいつだった。 好きだよ、大好きだよ、愛してるよ。 でもきっと、俺がお前を声に出して求めたら、お前は俺を捨てるんだろう? だから言ってやらない。絶対、死んでも、言わない。 愛と偽りの口 (嘘でもいいから、そのまま、) |