彼は人間でした。 彼の愛した彼は、人間を愛する人間でした。 人間が好きだと彼は笑います。 自分はバケモノだから、愛してもらえないと彼は呟きます。 バケモノじゃなかったら、自分は愛してもらえただろうか。 バケモノじゃなくなるには、どうしたらいいのだろうか。 身体が壊れてしまったら、人間になれるのだろうか。 彼は雨に打たれながら、頬に水を流します。 涙じゃなく、水。 人間じゃない自分が、涙を流すなんて。 だから、水。 ただの、水。 彼は自分にそう言い聞かせます。 悲しくなんかない、だって自分はバケモノだから。 「やあ、シズちゃん。傘もささずに何してるの?お散歩なわけないよねえ」 人間を愛する彼。 彼を愛さない彼。 歌うように話し、踊るように彼に近付く彼。 さあ、彼は彼の頬を伝うものに気付くでしょうか。 「シズちゃん、無視?そんなことできるようになったんだ?いつもみたいに殴ってこないわけ?」 「………」 「ねえ、シズちゃん。聞いてる?」 「………」 言葉を返さない彼。 追いかける彼。 彼を覗き込む彼。 「………ねえ、シズちゃん。…泣いてるの?」 愛を求めたその相手 (さあ、相手の気持ちに気付くのはどちらが先でしょうか) |